大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和33年(ネ)1897号 判決 1958年12月24日

控訴人 金沢一男

被控訴人 田口菊次郎

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

本件につき当裁判所が昭和三三年九月一〇日にした強制執行停止決定はこれを取消す。

前項に限り仮に執行することができる。

事実

控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人より控訴人に対して別紙物件目録記載の物件についてする千葉地方裁判所昭和三〇年(ワ)第二一五号家屋明渡請求事件の昭和三二年五月一日執行文を付与せられた和解調書正本に基く、家屋明渡の強制執行はこれを許さない。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張、証拠の提出援用認否は、原判決の事実摘示の通りであるからこれを引用する。

理由

当裁判所も控訴人の本訴請求を失当と判断するものであり、その理由とするところも、次に記載のように訂正追加する外は原判決の理由の説示と同様であるからこれを引用する。

本件において被控訴人が本件家屋の明渡を請求するには、控訴人が金員支払義務についての期限の利益を失つた場合において、十日の期限を定めて金員全額の催告をし、なお控訴人がその支払をしない場合に、被控訴人がなお金員の支払を請求するか、受領済の金員を返還して本件家屋の明渡を請求するかについての選択権を行使し、家屋明渡を選択した場合でなければならないこと本件和解調書の条項に照し明かである。そして右選択権行使の時期について控訴人は和解条項記載の催告期間十日の定めより推して一、二週間または十日位の期間と解するのが相当であると主張するが、本件和解条項には右行使の期間について何等の定めもしていないのであり、金員請求の催告期間も両者の性質から考えこれを参考とすることを適当と認めることはできないところであつて、むしろこの場合は、選択権を有する当事者の一方が選択権を行使しないことから生ずる相手方の不利益を防止するがために設けられた民法第四〇八条の規定によるのが相当であり、本件において、若し控訴人が被控訴人の選択権行使の遅延による不利益を免れんとすれば、右規定による選択権行使についての相当期間を定めた催告をすべきものと解するのが相当であるから、選択期間に関する控訴人の右主張は失当であり、右のような選択権行使の催告をしたことについての何等の主張も立証もない本件にあつては、被控訴人は、控訴人主張の一、二週間ないし十日の期間経過後もなお前記の選択権を失わないものと解するのが相当である。

控訴人はなお、被控訴人は右控訴人主張の期間内に控訴人から受領した金一〇万円の返還をしなかつたから、右期間の経過と共に金員請求を選択したものとみるべきであると主張するが、右期間経過後も被控訴人が前記の選択権を失わないものであることは右に説明の通りであり、受領済の金員の返還はその選択権行使の際にすれば足るものであること本件和解条項の趣旨から見て明かなところであるから控訴人の右主張また採用の限りではない。

従つて控訴人の本訴請求を排斥した原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないのでこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九五条を、強制執行停止決定の取消及びその仮執行につき同法第五四八条を各適用して主文の通り判決する。

(裁判官 薄根正男 村木達夫 山下朝一)

物件目録

市川市平田町三ノ一三五三ノ九

一、宅地 三九坪七合五勺

(公簿面三五坪七勺)

市川市平田町三ノ一三五三

家屋番号同町甲七五九ノ三

一、木造亜鉛葺二階建居宅

建坪 九坪二合五勺

二階坪 五坪

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例