大判例

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東京高等裁判所 昭和33年(ネ)2114号 判決

(一)、斎藤泰雄がその発明にかかる酸性粉末洗剤の製造方法につき昭和三一年一二月一一日登録第二二七、六五九号をもつて特許登録を受けたこと、控訴人は昭和三二年七月八日斎藤から右特許権の譲渡を受け、現にその特許権者であること、右特許権の権利範囲は「塩酸又は硝酸をまず白土に攪拌しながら添加して十分吸着させ、粘状となつて発煙の衰えたとき更に攪拌しながら珪砂を添加し、全体を潤製の粉末とすることを特徴とする酸性粉末洗剤の製造方法」にあること、被控訴人が現に珪砂を原料としてトイレツト用クレンザーを製造していることは、いずれも当事者間に争いがない。(略)控訴人は、被控訴人においては右クレンザーの製造方法として、(1)硫酸を珪砂及び白土に混合吸着させて潤製の粉末とする酸性粉末洗剤の製造方法、又は(2)珪砂に界面活性剤を混合し、これに酸性硫酸ソーダを少量の水に溶解したものを徐々に注加して混合し、潤製の粉末とする酸性洗剤の製造方法を採用しているものと主張している。

本件特許公報の記載によれば、

塩酸を使用した場合の実施例の次に「塩酸の代りに硝酸を用いても同様の結果が得られる」旨が記載せられているが、硫酸、酸性硫酸ソーダは勿論、その他の洗剤用酸類の使用については他に何らの記載もなく、塩酸、硝酸以外のものについては全然これに触れていないこと

が認められる。従つて本件特許発明は右公報の記載から見て「塩酸又は硝酸をまず白土に吸着させ、粘状となつて発煙の衰えるのを待つて、これに珪砂を添加すること」をその発明構成の要件としているものと認むべきである。

本件特許発明のねらいは、塩酸硝酸のような洗浄力は強いが発煙劇臭の欠点のある酸類を使用し、その欠点を防止しながら、しかも元の塩酸硝酸と同様の洗浄力を失わない酸性粉末洗剤を得ようとした点にあり、従つて本件発明における塩酸又は硝酸に代るものとしては、発煙劇臭を伴うものであつて、本件発明にかかる製造方法による処理により発煙と劇臭が抑制せられ、且つ取扱い易い潤製の粉末状となり、しかも便器の尿アカ等に対し塩酸及び硝酸と同程度の洗浄力を保持する洗剤となり得るような酸類でなければその均等物ということはできないものというべきである。

然るに硫酸及び酸性硫酸ソーダ水溶液には劇臭を伴う発煙のないことは、硫酸については当事者間に争いがなく、酸性硫酸ソーダ水溶液についても証拠上これを認め得るところであるから、硫酸及び酸性硫酸ソーダ水溶液は、いずれも本件発明において使用する塩酸及び硝酸の均等物とはこれを認め得ないところであつて、控訴人の右主張は到底排斥を免れない。

以上要するに、本件特許発明の要旨は、その特許請求の範囲に記載する通りにこれを解釈すべきであり、この点に関する控訴人の前記各主張は到底採用し難いものといわなければならない。

(二)、そこで次に控訴人が被控訴人において採用しているという前示(1)(2)の酸性洗剤の製造方法が本件特許発明に牴触するかどうかを検討するのに、洗剤用酸液として、右(1)の方法では硫酸を、(2)の方法では酸性硫酸ソーダを少量の水に溶解したものを使用しているのであるが、これらはいずれも本件特許発明で使用する塩酸及び硝酸の均等物と認めることのできないことは、さきに説明した通りである。またこれら洗剤用酸液を潤製の粉末状とするために、本件特許発明の方法では「洗剤用酸液をまず白土に攪拌しながら添加して十分吸着させ、粘状となつて発煙の衰えたとき、更に攪拌しながら硅砂を添加する」という方法を採用し、それを発明構成の必須要件としているのに対し、(1)の方法では、洗剤用酸液を白土及び硅砂に混合吸着させるというに止まり、また(2)の方法では硅砂に界面活性剤を混合し、これに洗剤用酸液を徐々に注加して混合するというにすぎない。従つて右(1)及び(2)の方法はいずれも本件特許発明を構成するための必須の要件を欠いているものというべきであり、右(1)(2)の方法が本件特許の権利範囲に属するか否かは、この方法が本件特許発明と同一又は均等であるか、同一又は均等な方法を包含しているか否かによつてこれを決すべきであつて、本件発明から容易に考え得るかどうかの問題とは明かにこれを区別して考えなければならないところであるから、右(1)(2)の方法が、本件特許発明の必須の構成要件を欠いている以上、たとえそれが本件発明から容易に考え得る方法であるにしても、その権利範囲に属しないものであり、本件特許権を侵害するものではないものといわなければならない。

二、不正競争行為の点について

しかし「トイレツトクレンザー」なる名称は、たとえこれが控訴人の最初に使用したものであるにしても、その言葉自体の性質上「トイレツト用クレンザー」を意味する用途表示の普通名詞にすぎないものというべきであるから、これが控訴人製造のそれを指すものとまで、不正競争防止法施行の地域内において広く認識せられたものというがためには、相当永年に互る使用により世上一般において、この普通名詞が控訴人製品の固有名詞と感得せられるまでに高められていることが必要である。

然るに控訴人発売より被控訴人の発売に至るまでの期間は前認定の通りせいぜい二年半余のことであり、その販売数量も右認定程度のものにすぎないのであるから、たとえ「トイレツトクレンザー」の名称が控訴人において最初にその使用を始めたものであり、またこれについて右認定通りの宣伝広告がせられたとしても、この期間において右程度の販売数量をもつて、この普通名詞が世上一般において控訴人製品の固有名詞と感ぜられるまでに到達し得たものとは到底考え得ないところである。

(原 山下 多田)

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