大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和33年(ネ)2129号 判決

一、控訴人は、被控訴会社の八戸工場長であつたが、昭和二十九年四月東京転勤とともに、被控訴会社の社宅である原判決添付目録記載の本件建物に一カ月金八百円の使用料で入居し、同年七月十二日被控訴会社を退職したが引続き現在まで右建物に居住していることは、当事者間に争がない。当裁判所は右社宅の使用関係を、賃貸借契約ではなくこれに類似する一種特別の契約であると解する。被控訴会社が社宅の使用に関し、社宅規程(甲第一号証の二)を定め、同規程中には、社宅使用者が退職したときは三十日以内に退去しなければならない旨の規定が存することは、原審証人田畑要助、八重沢泰一の証言ならびにこれら証言によつて成立を認める甲第一号証の二によつて明らかである。控訴人は右社宅規程を知らなかつたと主張するけれども、社宅に入居する者は特別の事情のない限り右規程の存在を知ると否とに拘らず、右規程の定めるところに従うべき意思で入居したものであつて、その規程は契約内容をなしていたものと推認するのが相当である。

二、次に被控訴人は、控訴人が本件建物を明渡さないため、被控訴人は少くとも右建物の公定家賃額以下である一カ月金千六百円の損害を蒙つたと主張する。一般に建物が不法に占拠せられた場合には、もし占拠されていなければこれを他に賃貸して賃料を取得することができるのに、占拠されているため賃料を取得することができないものであるから、賃料に相当する損害を蒙つたといえるけれども、本件のように社宅である場合には、占拠されていなくても、これを他に賃貸して賃料を取得することは特別の事情のないかぎり、認められないから、不法な占拠によつて賃料に相当する損害を蒙るとはいえない。本件においては控訴人が明渡さないために、被控訴会社が具体的にどのような損害を蒙つたか又将来蒙るかについては何等主張も立証もないから、これを社宅として使用させる場合の使用料に相当する一カ月金八百円の割合の金額は、控訴人の占拠による損害額と認められるけれども、それ以外の分は損害として認めることはできない。

(薄根 村木 元岡)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!