東京高等裁判所 昭和33年(ネ)2212号 判決
被控訴人斎藤が被控訴人組合等に対し、同組合等主張の貸金債務(但し、被控訴人春岡農業協同組合の貸金契約締結の日は成立に争のない丙第一号証、乙第一号証の記載に照し昭和三十一年五月十二日の誤と認められる)を負担していたところ、右債務を弁済することができなかつたので、昭和三十二年六月八日被控訴人組合等に対し右債務の代物弁済として本件家屋の所有権を移転する旨の契約をしたこと及びその際登記は司法書士の指示によつて昭和三十二年六月十日所有権移転請求権保全の仮登記申請をしたため、その旨登記されたが、昭和三十三年二月十二日所有権移転の本登記がなされたことは、原判決の認定するとおりである。
控訴人は、右所有権移転請求権保全の仮登記は停止条件附代物弁済を原因としたものであるから、実質上の権利関係と一致せず、しかもその不一致は権利変動の同一性を欠くものであるから、右仮登記は結局登記原因を欠く無効のものである旨主張する。この点についてみるに、右仮登記は、本来ならば昭和三十二年六月八日の代物弁済契約による所有権移転登記をすることができる場合であつて、仮登記をすべき場合ではなく、しかも前掲丙第一号証によると、右仮登記は昭和三十二年六月八日の停止条件附代物弁済契約を原因として記載されているものであることが認められる。従つて右仮登記の表示は、そのまま実質上の権利関係に符合するものでないことはいうまでもない。しかし右仮登記に表示されたところは、所有権の移転に関し、その所有権移転請求権の確定を停止条件にかからしめているもので、実質上の権利関係よりもむしろ過少に表示されたものに過ぎず、又その後の本登記により、右請求権が確定されたものとして右所有権移転そのものにつき登記し、現在の権利変動を表示することもできるのであるから、右仮登記をもつて直に権利変動の同一性を欠くものとはいえない。しかも仮登記は、後に本登記がなされることを予想したものであり、後にこれに基く本登記がなされたときは、これと相俟つて登記簿上の権利変動が表示されるものであるから、本登記がなされた以上、これと別個に仮登記だけを分離してその権利変動の表示が真実に符合するかどうかを論ずる実益はない。本件においては右仮登記の後に昭和三十三年二月十二日右仮登記に基く所有権移転の本登記がなされているのであるから(なおこの点は後の判断参照)、これと相俟つてみると、その登記簿上に表示された権利変動は本件家屋の所有権の移転で、右仮登記の順位により昭和三十二年六月十日に遡つて対抗力を生ずるにあり(なお右対抗力の点は後の判断参照)、右は実質上の権利関係と符合するものであることが明かであるから、右仮登記をもつて控訴人主張のように登記原因を欠く無効なものとはいわれない。
(薄根 村木 元岡)