東京高等裁判所 昭和33年(ネ)2398号 判決
次に控訴人の予備的請求について考察する。控訴人が被控訴人等より株式会社一新社名義でなされた申込に応じて新聞広告の斡旋を引受け、昭和三十年一月から同年六月までの間毎日新聞その他の新聞紙に被控訴人等申出の広告を掲載させたことは前記の通りであるところ、証拠を綜合すれば、被控訴人両名は昭和三十年一月頃共同の出資により広告斡旋業を目的とする株式会社一新社の設立を計画したのであるが、その設立までの間とりあえず両名共同で右広告斡旋業を営むこととし、会社設立の暁には事業をこれに引継ぐ予定であつたこと、被控訴人等は当初控訴人に広告斡旋を申込むに際し被控訴人角田は株式会社一新社の取締役社長、被控訴人橘は同会社の専務取締役であると称しそのような肩書のある各自の名刺を示したので、交渉に当つた控訴会社営業部長小林圭二は右の会社が既に存在し被控訴人等がそれぞれその代表権のある取締役社長又は専務取締役であると信じ、爾来右一新社を相手方として前記の期間広告斡旋の取引を続けたものと認めることができる。ところが右一新社は結局設立されるに至らず存在しない会社であることは当事者間に争いがないから、結局被控訴人等は共同して存在しない会社の代表者として控訴人との間に前記取引をしたものというべくこのように被控訴人両名が不存在会社の代表者として取引をした関係は、民法第百十七条第一項に定める他人の代理人がその代理権を証明することができず且本人の追認を得られない場合に類似するから同法条を本件の場合に類推適用し被控訴人等は善意の相手方である控訴人に対しその選択に従い履行又は損害賠償の責に任ずべきものと解するのが相当である。(控訴人が善意であつたことにつき過失があつたことを認むべき資料はない。控訴人が本件取引をするに当り、株式会社一新社の営業の内容とか実績を調査しなかつたこと(原判決六枚目表十行目)は未だ以て過失と認めるに足りない。)控訴人と被控訴人等との前記取引において広告代金は控訴人の斡旋により新聞に広告が掲載された都度依頼者から控訴人に支払う約定であつたこと、及び同取引の結果控訴人に支払うべき約定の広告代金の内昭和三十年四月二日から同年六月十五日までに掲載の分合計金十九万七千七百八十一円が未払であることは前記甲第十三号証の一ないし九と当審証人小林圭二の証言及び原審被控訴本人角田の尋問の結果とによりこれを認めることができる。他にこの認定を覆すに足る証拠はない。控訴人は広告代金債務の履行を選択し本訴においてこれが支払を求めるのであるから、被控訴人等は各自控訴人に対し前記取引に基く未払代金十九万七千七百八十一円の二分の一にあたる金九万八千八百九十円五十銭宛とこれに対する訴状送達の翌日又はその後である昭和三十一年十二月十日以降支払済に至るまで商法所定年六分の割合による遅延損害金の支払義務があるものとしなければならぬ。
(奥田 岸上 下関)