大判例

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東京高等裁判所 昭和33年(ネ)355号 判決

一、控訴人と被控訴人が昭和一三年一〇月二七日婚姻の届出をしたこと、および昭和二六年一〇月一二日控訴人と被控訴人の協議離婚届がなされていることは、当事者間に争いがない。

二、控訴人は、右協議離婚届は控訴人の真意に基いてなされたものではない旨主張する。

原審および当審における証人岡本兼雄の各証言、原審証人小野寺享二の証言、原審および当審における控訴本人尋問の各結果、弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。

控訴人と被控訴人との間は、被控訴人の女性関係等が原因となつてかねてから円満を欠いていたが、昭和二六年七月下旬頃些細のことで口論となり、その結果控訴人は知人の訴外三井かず子方に難を避けて別居するようになつた。当時控訴人は着のみ着のままの有様で、着物等も右三井かず子から借用していたが、秋が深まるにつれ着物等に不自由を感じたので、昭和二六年一〇月一〇日頃被控訴人宅に自己の身の廻り品等の荷物を受け取りに行つた。その際またしても被控訴人との間に争いが生じ、控訴人は被控訴人から暴行を加えられ心身とも通常でない状態になり、荷物が運び出される頃は被控訴人方病院玄関の椅子に疲れた身体を横たえていた。一方、かねて被控訴人から協議離婚届書に控訴人の印を貰うべく依頼されていた訴外岡本兼雄は、同年八月中旬頃鎌倉市役所から離婚届の用紙を貰い、同年九月頃控訴人の許に赴き控訴人に対してこれにその印を押してくれるよう墾願したが遂にその印を押して貰うまでに至らなかつたが、荷物を取りに来る時に押して貰おうとそのまま持ち帰つたのであつた。岡本は控訴人が前記のとおり荷物を引き取りに来た当日、荷物がトラツクに積み終つた頃、その場にいた訴外青木に控訴人の印を右離婚届書に押して貰うべく依頼した。そこで、青木が前記のとおり椅子に横たわつている控訴人に対し印を貸してくれと申し向けたところ、控訴人は荷物の受取証にでも押すのであろうと深く考えもしないで自己の印を同人に渡したので、青木は右離婚届書の届出人欄に右印を押してこれを岡本に渡した。岡本は、その後訴外小野寺に控訴人の氏名を記入させ、また証人欄に自己および訴外中島の各署名押印をした上、必要事項を記入して被控訴人とともに甲第二号証の離婚届を作成して昭和二六年一〇月一二日これを東京都新宿区長に提出をした。

かような事実が認められるが、右認定事実に反する原審および当審における証人人見正一郎の各証言ならびに被控訴本人尋問の各結果は、前記岡本証人の各証言および控訴本人の各尋問の結果に対比して信用されず、他に右認定をくつがえすに足りる証拠はない。

右認定の事実によれば、本件離婚は控訴人の意思に基くものでないと認めるのが相当である。もつとも、乙第一号証および第二号証には、控訴人はその不動産の所有名義を離婚に因り辻キヌと変更する旨の各付記登記をしているが、これによつて本件離婚が控訴人の意思に基くものということはできない。

(角村 菊地 吉田)

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