東京高等裁判所 昭和33年(ネ)379号 判決 1958年9月29日
事実
控訴人(一審被告、敗訴)は、本件建物につき被控訴人が売買による所有権取得の登記を経たことは認めるが、仮りに被控訴人主張のような売買契約があつたとしても、控訴人は同契約の前昭和二十九年十月九日に訴外森住秀夫から本件建物を買い受けており、被控訴人はその事情を知りながら、これを買い受けたものであるから、被控訴人は登記の有無にかかわらずその所有権をもつて控訴人に対抗できないものであると主張した。
被控訴人は控訴人が本件建物を売買により取得したことを否認し、請求原因として、控訴人は昭和三十年二月二十五日訴外有限会社日光モータース販売所及び森住有集に対する東京地方裁判所の不動産仮処分命令正本に基き、本件建物について仮処分の執行をしたが、被控訴人は本件建物を昭和二十九年十二月三十日その所有者である森住秀夫から買い受け、昭和三十年四月二十二日代金を支払うと同時に所有権移転の登記手続を完了したから、所有権に基いて、控訴人のなした右仮処分執行を許さない旨の判決を求めると主張した。
理由
控訴人が昭和三十年二月二十五日訴外有限会社日光モータース販売所及び森住有集に対する東京地方裁判所の不動産仮処分命令正本に基き本件建物について仮処分の執行をしたこと及び右仮処分決定の内容が同建物につき債務者である右訴外人等の占有を解いてこれを執行吏の保管に付する、債務者等に対し現状を変更しないことを条件としてその使用を許す趣旨であることは当事者間に争がない。
そして証拠によれば、被控訴人は昭和二十九年十二月三十日右建物の所有者であつた訴外森住有集こと森住秀夫(森住有集と森住秀夫は弁論の全趣旨に徴し同一人と認める。)から本件建物を代金三十万円で買い受ける契約を結び、同日金十万円、昭和三十年四月中二回に亘り金二十万円を支払い、所有権を取得し、同月二十二日所有権取得の登記をしたことが認められる。
控訴人は、被控訴人は右建物買受前に控訴人が訴外森住から本件建物を買い受けていたことを知りながら、これを同訴外人から買い受けたものであるから、登記の有無にかかわらず、その所有権をもつて控訴人に対抗できないと主張するけれども、仮りに控訴人主張のような事実があつたとしても、このようないわゆる二重売買の場合には、後に買い受けた者がたとえ悪意であつたとしても、すでにその登記を経た以上は、その権利をもつて前の買受人に対抗できるものと解すべきであるから、この点の控訴人の主張は理由がない。
また、控訴人は、本件仮処分の執行当時は被控訴人の所有権取得について登記がなかつたのであるから、仮処分債権者である控訴人に対しては被控訴人の権利取得はその効力がないと主張するが、本件仮処分命令の内容はいわゆる占有の移転の禁止を目的とするにすぎないことは前示のとおりであり、右仮処分は何ら仮処分債務者の本件建物に対する処分権を制限する趣旨のものでないことが明らかであり、しかも右売買は右仮処分執行前になされたものであるから、被控訴人は前記売買契約により森住より有効に右建物の所有権を取得したものというべく、そして被控訴人は前記のとおりその所有権取得の登記を経たのであるから、その登記を経由した以上はその登記が本件仮処分の執行後になされたものであつても、被控訴人は右仮処分にかかわらず、控訴人に対して右所有権取得を主張することができるものと解するのを相当とする。従つてこの点に関する控訴人の主張も理由がない。
してみると、本件建物に対してなされた本件仮処分の執行は許すべからざるものであり、被控訴人の本訴請求を認容した原判決は相当であるとして、本件控訴はこれを棄却した。