大判例

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東京高等裁判所 昭和33年(ネ)407号 判決

証拠を綜合すると次の事実を認めることができる。すなわち、亡楠瀬吉郎は昭和二十八年十月二十五日東京都北多摩郡狛江町所在の土地一千坪を池田博男に対して一坪当り代金二千円で売り渡す旨の売買契約を締結し、右池田は同日手附金として金三十万円、同月六日内金として金十万円、同十三日同じく内金として金四十万円合計金八十万円を吉郎に支払つた。その後昭和二十九年一月六日楠瀬吉郎が死亡したので、その妻である被控訴人楠瀬ウメ及びその嫡出子であるその余の被控訴人五名と森川美智子が吉郎の相続をしたことは当事者間に争いがない。してみると、被控訴人等六名は森川とともに右売買契約について売主である吉郎の地位を承継したものといわなければならない。ところで、買主である池田博男が被控訴人等に対し昭和三十三年三月十一日、森川美智子に対し同年七月十三日何れも内容証明郵便でそれぞれ七日以内に右売買契約上の義務の履行を催告し、右期間内に履行しないときは売買契約を解除する旨の催告並びに条件附契約解除の意思表示を発し、右意思表示は被控訴人等に対しては同年三月十三日、森川に対しては同年七月十五日それぞれ到達したことは当事者間に争がない。

よつて右契約解除の当否について判断するのに、池田が被控訴人等及び森川に対し右売買契約の履行を催告するに当り、売買残代金の支払につき履行の提供をしなかつたことは、控訴人において明らかに争わないので自白したものとみなす。しかしながら、本件口頭弁論の全趣旨によると、被控訴人等及び森川は何れも、池田がなした前記催告並びに条件附契約解除の意思表示の前後を通じて、終始右売買契約の成立を否認していて、右売買契約を履行する意思が全くないことが明らかであることを認めることができる。元来双務契約において、債務者に契約上の義務を履行する意思が全くないことが明白な場合には、相手方は契約解除の前提となる履行の催告をするに当り、同時履行の関係にある自己の債務について履行の提供をすることを要しないものと解するのを相当とする。従つて、池田のなした催告並びに条件附契約解除の意思表示は、前記のとおり残代金の提供を伴わないけれども、有効であるというべきである。そして被控訴人等及び森川は右催告期間内に右催告に応じなかつたのであるから、解除権不可分の原則に従つて、右条件附契約解除の意思表示の到達した最終の分すなわち森川に対する右到達の日である昭和三十三年七月十五日から七日の期間を経過した同月二十二日限り右売買契約は解除の効力を生じたものといわなければならない。従つて被控訴人等は森川とともに池田に対し吉郎の受領した手附金及び内金合計金八十万円の返還債務を負担し、特別の事情の主張も立証もない本件では、右債務は被控訴人等及び森川の相続分に応じて分割されるから、被控訴人楠瀬ウメは金二十六万六千六百六十六円余、その余の被控訴人等は各金八万八千八百八十八円余宛の返還債務を負担するに至つたものといわなければならない。

証拠によると、池田は昭和三十三年七月二十五日被控訴人等に対する右債権を控訴人に譲渡し、被控訴人等に対して債権譲渡の通知をしたことが認められるから、被控訴人等には控訴人が本訴で請求する金額(被控訴人等各自の債務額は前記のとおり)及びこれらに対する完済までの年五分の割合による金員の支払義務があることが明らかである。

よつて、控訴人の本訴請求は理由があるものとして認容すできであるのに、これを棄却した原判決は失当であるとしてこれを取り消し、被控訴人等に対しそれぞれ前記の金額の支払を命じた。

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