大判例

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東京高等裁判所 昭和33年(ネ)717号 判決

控訴人と被控訴人間の横浜地方裁判所昭和二七年(ワ)第一八六号約束手形金請求訴訟事件の判決が確定したこと、右判決によれば、被控訴人は控訴人に対し金五十万円及びこれに対する昭和二十七年二月一日以降完済に至るまで年六分の金員並びに同事件の訴訟費用を支払うべき義務を負担していることは当事者間に争のないところである。

被控訴人は、控訴人が訴外青木輸出産業株式会社にあて、昭和二十六年十一月二十九日金額五十万円、満期昭和二十七年一月二十九日、支払地、振出地横浜市、支払場所株式会社大阪銀行横浜支店と定めて振り出した約束手形一通を、その後同会社から裏書譲渡を受け、これが所持人となつたので、昭和三十一年三月末日控訴人に対し本件手形を呈示し、本件手形債権を自動債権とし、前記確定判決の債権と対当額において相殺する旨の意思表示をしたので、前記確定判決の債権は消滅したと主張し、これに対して控訴人は右手形債権は既に消滅時効完成によつて消滅しているので、これによつて相殺し得ないと主張するのである。

およそ相殺の要件は相殺の意思表示の時において双方の債権が相殺適状の状態で相対立することを要件とするのであるが、法は例外的に公平の見地よりして時効により消滅した債権がその消滅以前に相殺に適した場合にはその債権者は相殺を為すことを得と定め(民五〇八)たのであつて、ここにいう時効により消滅した債権とは、法律上規定された消滅時効の期間の経過した債権の意味であつて、すなわちかかる債権については消滅時効の期間経過後と雖も、その期間経過前に相殺適状にあつた場合に限り、これを自動債権とする相殺を認めたのである。しかして控訴人が被控訴人主張の手形を振り出したことは当事者間に争のないところであるが原審における原告(被控訴人)本人尋問の結果(第三回)によれば、被控訴人が右手形を取得したのは、昭和三十一年中と認められるので、被控訴人の本件手形取得前控訴人の手形上の責任について消滅時効期間が既に経過していたことは、暦数上明らかであるから、右手形については、消滅時効期間経過前においても相殺適状にあつたものといい難く従つて被控訴人のなした相殺の意思表示自体が効力なきものと認めざるを得ない。そうだとすれば、相殺の有効を前提として、前記の確定判決の債権が消滅したとの被控訴人の主張は理由がないものというべきである。

(松田 猪俣 沖野)

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