東京高等裁判所 昭和33年(ラ)178号 決定
抗告人等は、相手方等に耕作能力がないため耕作権を失う虞のあること及び抗告人等が被相続人亡中島一誠及びその祖先の祭祀を主宰する者として同人の農地の耕作権を保有する必要のあること等の理由を挙げ、原審判が同人の相続財産の分割により同審判書第二目録記載の農地三反六畝十七歩を相手方中島まきに引渡すことを抗告人等に命じたことに対し異議を述べており、記録編綴の中島まきに対する診断書(記録第一三一丁)によれば同人が高齢かつ高血圧症のため自身右農地を耕作する能力のないことは明らかであるけれども、当審における相手方中島和佐子審尋の結果によれば、中島まきの子でこれと同居し共同で生活している相手方中島和佐子は、洋裁を生計の資とし農業には従事せずかつ身体頑健とはいえないにせよ、なお壮年で農業についても若干の経験があり、右程度の農地を経営する能力がないとは必ずしもいえないことが認められるので、抗告人等主張のように右農地を相手方中島まきに引渡すときは直ちに第三者に賃貸小作させることになるものとは断定し難い。又右事実及び抗告人等が当審において提出した各証明書(記録第一九一丁、同第一九二丁)の記載によれば、中島まき及び中島和佐子には農耕能力が乏しいため同人等が右農地の耕作をなすときはその農業生産を低下させる虞があることは認められるけれども、農地の共同相続の場合にはすべての相続人が必ずしも農耕能力を具備するものとは限らず、相続財産中の農業資産とその他の財産とが何れも相当の部分を占め、耕作能力のある相続人には農業資産を、耕作能力のない相続人にはその他の財産を、いずれもその相続分を害しないで配分できるような場合とか、或は耕作能力があるため農業資産の配分を受けることになる相続人に相当の資力があり耕作能力のない他の共同相続人に対しその相続分に相当する金銭の支払又は債務の負担をなすことにより農業資産の分割を避けることのできるような場合は格別、このような特別の事情のない場合には、農耕能力の少ない相続人に農地が相続されその農業生産の低下するような事態の起ることは避け難いことであり、農地法第三条第一項但書第七号の規定が遺産の分割により農地を耕作する権利の取得される場合を同法による権利移動の規制の範囲外としていることから考えても、かような結果となることは法律の容認するところであることが明らかである。従つて前示のような特段の事情の認められない本件において、原審判が本件遺産の分割により相続財産中の農地の一部分である本件農地をこれを耕作できる権利とともに農耕能力の少ない共同相続人である相手方中島まきに帰せしめその引渡を命じたことを以て直ちに違法又は不当な分割方法であるということはできない。
(川喜多 小沢 位野木)