東京高等裁判所 昭和33年(ラ)27号 決定 1958年10月28日
抗告人 立儀音二
主文
原決定を取消す。
本件競落はこれを許さない。
理由
抗告人は主文と同旨の裁判を求め、その理由として言うところは別紙抗告理由書記載のとおりである。
本件競売申立にかかる土地に対し、特別都市計画法による仮換地の指定がなされていることは、抗告人提出に係る昭和三十一年八月七日附東京都知事より抗告人宛「仮換地指定通知」なる書面により明かである。(尚同書面によれば仮換地指定の効力発生時期は同年八月十四日とされて居り、又従前の宅地が百坪であるに対し、仮換地は東京都大田区本蒲田四丁目九番の二五の宅地(従前二十五坪三合六勺)の分をも含めて七十八坪である。)案ずるに、特別都市計画法による仮換地の指定は、同法による土地区劃整理施行の必要上将来換地として交付さるべき土地を一応予め指定すると共に、換地処分が効力を生ずる迄の間従前の土地についての使用収益をなすべきことを禁ずるもの(同法第十三条、第十四条)に過ぎず、換地処分そのものではないから、換地予定地の指定がなされたからといつて、これがために従前の土地の所有権者や抵当権者がその土地についての権利を失うものでもなく、又換地予定地の上に所有権や抵当権を取得するものでもない。従つて従前の土地につき抵当権を有する者がその抵当権の実行の為め競売申立をなすについては、既にその土地の仮換地が指定されていても、尚従前の土地につき競売を申立て得るに止まり、仮換地そのものの競売を申立て得るものではない。本件において抵当権者が従前の土地及びその地上の建物につき抵当権の実行のため競売を申立て、原裁判所が右土地及び建物につき手続を進めたのはむしろ当然である。然しながら元来競売法第二十九条民事訴訟法第六百五十八条第一号により競売期日の公告に不動産の表示を要することとしたのは、これによつて競売の目的である不動産を特定し、その同一性を知らしめると同時に、他の公告記載要件と相俟ち、できうる限り当該不動産の実質的価値を了知させ、以て多数の人々に競売手続に参加せしめる機会を与えて以て競売申立人及び債務者その他の利害関係人の利益を保護せんとすることにあることは明白であるから、仮換地の法律上の性質が前示の如きものであるとしても、(仮換地の指定は殆ど例外なくそのまま本換地の指定に移行されている現状を考慮すれば)仮換地の指定のある場合には、前記の利害関係人に対し、現実の土地、建物の実状を知らせるためにも、登記簿上の土地、建物の坪数、構造、評価のみを公告するだけでは足らず、これに併せて仮換地の位置、坪数、その地上に建物ある場合はその構造等をも併せて表示し、以て前示公告の目的に副う不動産の表示を必要とし、又不動産の評価も右に即応する事情を考慮してなさるべきものと解さなければならない。従つて登記簿上の不動産についてのみ、右の公告を為し、仮換地に指定された土地、建物について全然触れるところのない公告並びに評価は適法なものとは言えない。
飜て本件についてこれを見るに、本件競落許可決定の基礎となつた昭和三十三年一月十七日の競売及び競落期日の公告に於ては競売申立に係る登記簿上の土地だけが表示されて居り、しかも前記仮換地の指定前である昭和二十九年九月十九日附で提出された鑑定人平沼董治の評価書による本件宅地の評価額金二百万円、本件建物の評価額金二百五十四万四千二百円(東京地方裁判所昭和二十九年(ケ)第一五一三号土地建物競売事件記録第五十六丁以下参照)を合計した金四百五十四万四千二百円を基礎とし、爾後数次低減した額を最低競売価格として表示し、仮換地指定に関する上記事実が評価の上にしんしやくされた形跡は記録上認められない。(本件記録第五十八丁には仮換地に関する上申書が綴られているが、爾後の公示、最低競売価格の上には何の変化も看取されない)然らば右競売期日の公告及最低競売価格を基礎とする本件土地の競落を許可したことは不相当である。
なお抗告人は本件競落許可決定に表示されている建物は既に取毀された旨主張するが、これを認めるに足る資料はない。けれども(その現存するや否やはしばらく措き)右建物は本件土地と一括して競売せられ、最低競売価額も競落代金も土地建物を一括してきめられているのに土地について前記のとおり競落を許されない以上、右建物の競落許否についても右土地と同一に処理する外はないので結局本件建物の競落は本件土地の競落と同様許されないものとする外はない。
仍て原決定を取消し、本件競落を許さないものとして主文のとおり決定する。
(裁判長判事 梶村敏樹 判事 岡崎隆 判事 堀田繁勝)
抗告理由
一、本件競売手続の一件記録(鑑定書記載)において昭和三十三年一月十八日競落許可決定言渡を見た土地百坪は区劃整理道路拡張計画によつてすでに東京都から道路の一部として収用せられ、替地処分によつて前の土地よりはるかに価値の高い国鉄蒲田駅増築予定地(現在工事中)のそばに約七十坪の土地を下付されております。
二、本件競売手続の一件記録(鑑定書記載)において昭和三十三年一月十八日競落許可決定言渡を見た建物は元来無許可建築なので以前より大田区役所建築課から取りこわしを命ぜられておりましたが、前項の区画整理によりその敷地がいよいよ道路として強制収用せらるるに至りましたので行政処置により昭和三十二年十一月末頃取りこわしを終つております。現在前項の替地上に前記取りこわし古材料を若干使用しこれに多量の新建築材料を加え新らしい建物が新築されております。
三、前二項に記載した事項については本件競売事件記録中特に鑑定書には全く記載が為されておらず、同土地に取りこわし前の建物が現存するものとして本件競売がなされておりますがこれはありもしない建物土地を競売に付した違法のものといわなければなりません。
四、前三項に述べた理由によつて原審競落許可決定は当然取り消さるべきものでありますが、仮にこの理由が取消にあたひしないものとするも、現在替地処分によつて移転の終つた土地は鑑定書に記載ある区画整理前の旧土地と比かくし坪数こそ三割方減少してはおりますが駅前という場所的価値を考慮すれば前の土地に数倍する値打があり、又建物については鑑定書記載の旧建物のとりこわし古材を若干使用してはおりますが土台も間取りも全く相違する新築建物であり、その価値も又旧建物以上のものがありますから、これをあらたに鑑定の上売却すればその代価は少くとも原審競落価格の倍額以上となるは必定であります。よつて本件不動産の所有者たる抗告人は原審競落許可決定により損失をこうむる結果となりこれに承服することはできません。
五、その上本件競売公告に記載ある賃貸借関係は全部事実と相違しておりますからこの点よりするも本件競落は不当であります。