大判例

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東京高等裁判所 昭和33年(ラ)428号 決定

氏は名とともに人の同一性を識別するための標識であり、社会生活上きわめて重大な意義をもつものであるから、みだりにその変更を許すときは国家、社会の利益、秩序に悪影響を及ぼす虞があるというところから、わが現行法のもとでは、個人の意思のみによつてその変更を認めず、しかも名の場合よりも一層重要性を認めてその変更を厳重に制限し、「やむを得ない事由」がある場合に限つて家庭裁判所の許可を得て変更することができることになつている(戸籍法第百七条第一項)。そしてここにいわゆる「やむを得ない事由」というのは、現在の氏の継続を強制することが社会観念上甚しく不当と認められる場合をいい、単に氏を変更する方が有利であるとか、現在の氏を称することが心理的、主観的に好ましいとか、そのほか現在の氏を称することにより多少の不便、不都合があるとかいうにすぎない場合はこれに含まれないものと解するを相当とするところ、本件の変更の許可申立の理由は「旧養家の氏『山崎』を称えてすでに相当の年月を経ており、社会経済的利益の維持及び今後の社会生活にとつても『山崎』として活動することが有利であり」、申立人(抗告人)富男が公務員として「今後の勤務関係において……私生活上の好ましくない家庭内の出来事を公然発表する結果となることは主観的に堪え難いことであり」、就学中の「三人の子供にとつても『本間』に復することは子供達の社会なりに好ましくなく」童心を傷けることを避けたいと希望し、また「個人的標識としても同一性認識上も従来の『山崎』の氏をもつて社会生活を営むことが必要であり」「個人の表示手段たる氏の変更により、申立人(抗告人)の社会生活上にも、その所掌する公務関係においても、多少なりとも同一性を惑わす結果により混乱は避け難いと思われる」というのにずぎないのであるから、このような事由は、氏を変更する「やむを得ない事由」に該当するということができないものといわなければならない。のみならず、本件のような場合に氏の変更を許すことは結局強行法規である民法第八百十六条の趣旨にも反する結果を招来することとなるものと考えられる。そうだとすると本件氏の変更許可の申立は許すべきではなく、これを却下した原決定は相当である。

(川喜多 小沢 位野木)

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