東京高等裁判所 昭和33年(ラ)640号 決定
裁判上の和解調書に違算書損その他これに類する明白な誤謬あるときは裁判所は何時でもこれが更正決定をすることができるが、右に所謂明白な誤謬とは当該和解調書の全趣旨より推究し、または右和解成立の基本たる資料と対照し以てその誤記であること自ら明らかなるべき場合に限るものと解するを相当とする。
本件和解調書第三項の更正前の記載「相手方(被再抗告人)は申立人(再抗告人)に対して昭和三十二年九月、十月分の賃料合計二万四千円の延滞賃料支払義務あることを認め、これを昭和三十二年十一月より同三十二年四月まで毎月末日限り一ケ月金二千円也割賦して持参支払うこと」と、更正後の「相手方は申立人に対し昭和三十二年九月より同三十三年一月分までの賃料合計金六万円也の延滞賃料支払義務あることを認め、これを昭和三十三年二月より同三十四年一月まで毎月末日限り一ケ月金五千円也割賦して支払うこと」なる記載とを対比し、且つ右和解調書の全趣旨より推究してみても両者はその実質内容を異にし到底前者は後者の明白な誤記であると認めることはできない。尤も記録によれば右和解の成立したのは昭和三十三年二月五日であることが認められるから、延滞賃料の支払期に関する前者の記載は著しく不合理でありまた本件和解申立書添附の和解条項を記載した書面中第三項について鉛筆書のメモ式で後者に符合するように書き加えられてある形跡は窺えるけれども、右は適式の訂正でもなく、これを以て直ちに一件記録上前者は後者の明白なる誤記であると断定することはできず、仮りに前示更正せられた内容の和解が成立していたとしても冒頭説示の理由により記録上明白な誤謬と認められない以上最早更正決定を以て是正し得る限りでない。
(柳川 坂本 中村)