東京高等裁判所 昭和33年(ラ)656号 決定 1958年11月15日
抗告人 戸室源四郎
相手方 斎藤清三郎
主文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人の負担とする。
原決定主文第一項第五行目中「強制執行」とあるを「仮処分執行」と更正する。
理由
抗告代理人は、「原決定を取り消す。相手方のなした執行方法に関する異議申立を却下する。」との裁判を求め、その理由を別紙抗告の理由と題する書面記載のとおり主張した。
よつて按ずるに、一件記録によれば、原裁判所が抗告人を債権者、相手方を債務者として昭和三三年五月三〇日に、「債務者は上都賀郡粟野町大字上粕尾一、三一六番山林九畝九歩、同所一、三一六二番山林二畝二歩の立木を伐採し、または伐採した立木を搬出してはならない。」旨の仮処分決定を発令し、右仮処分決定は同月三一日債務者に送達されたこと、原裁判所執行吏高橋竹三郎は右決定正本に基く仮処分執行を抗告人から委任されたので、昭和三三年六月三日上都賀郡粟野町大字粕尾の山林に臨み、その執行として別紙記載事項を記載した公示札二個を施したことが認められる。
しかし、債務者に対し不作為を命ずる仮処分命令の執行は該命令を債務者に送達することによつてなされかつこれをもつて完了するところ、本件仮処分命令が債務者たる相手方に送達されたことは前認定のとおりであるから、執行吏が前記公示札を施してなした仮処分執行は本件仮処分命令執行の範囲を逸脱したものとして違法たること明らかである。抗告代理人の引用する民事訴訟法第七五八条第二項は裁判所が仮処分命令を発令する際にその目的達成に必要な具体的方法を示したものであつて執行吏が執行をなす際の運用方法を定めたものではないから、右をもつて執行吏の本件仮処分執行を適法ならしめる根拠となすことはできない。
よつて、相手方の本件仮処分執行不許の裁判を求めるための異議申立を認容した原決定は正当であつて、本件抗告は理由がないが、原決定主文第一項第五行目中「強制執行」とあるは「仮処分執行」の誤謬であること、本件記録に照らし明白であるから、これを主文において更正し、抗告費用の負担につき民事訴訟法第四一四条、第九五条、第八九条を適用して主文のとおり決定する。
(裁判官 二宮節二郎 奥野利一 大沢博)
抗告の理由
相手方が申立た執行方法に関する異議の理由は執行吏高橋竹三郎が仮処分執行の現場において公示札を施したことは違法であるから仮処分執行の取消をもとめておる所であるが仮処分の決定に公示をなすことを命じておらないとしても仮処分執行にさいし公示をなすことは仮処分の執行の範囲内であつてけつして違法ではない。
即ち民事訴訟法第七五八条第二項によれば仮処分は相手方に行為を命じ若くはこれを禁じ又は給付を命ずることを以て之を為すことを得とあつて本件の場合に相手方と伐採並に搬出を禁じた仮処分命令であるから公示について特別な記載がなくても執行吏は執行の方法として公示することは当然の措置と言うべきである。
よつて原決定は違法であるから之が取消をもとめる為本件抗告をなす次第です。
記載事項
公示
宇都宮市大谷町一四七番地
債権者 戸室源四郎
右代理人弁護士 小堀文雄
上都賀郡粟野町大字上粕尾五二七番地
債務者 斎藤清三郎
仮処分の目的たる物件の表示
上都賀郡粟野町大字上粕尾千参百拾六番
一、山林 九畝九歩
同所千参百拾六番弐
一、山林 弐畝弐歩
前記物件は宇都宮地方裁判所昭和三十三年(ヨ)第八〇号不動産仮処分申請事件につき昭和三十三年五月三十日同庁に於て附与したる執行力ある仮処分決定に依り左の通り仮処分決定を為す。
一、債務者は前記記載の山林の立木を伐採し、または伐採した立木を搬出してはならない。
尚何人と雖も本決定に反する行為を為し又はこの公示札を破毀するときは刑罰に処せらる。
右公示す。
昭和三十三年六月三日
宇都宮地方裁判所執行吏 高橋竹三郎