東京高等裁判所 昭和33年(行ナ)76号 判決
当事者間に争のない事実及び各その成立に争のない甲第一号証及び甲第四号証によれば、原告の出願にかゝる本件商標は、別紙記載のように、「報国チエン株式会社」及び「HOKOKU CHAIN CO.,LTD,」の文字をいずれもゴシツク体で二段に並べて左横書にして構成されているものであること、また審決に引用した登録第三六〇、八二〇号商標は、「報国」の文字を行書体で縦書にして構成され、昭和十九年一月十九日に登録されたものであることを認めることができる。
そこで右両商標が類似するものであるかどうかについて判断するに、原告の本件出願にかゝる商標が、その指定商品である第十七類「他類に属しない機械器具及びその各部並びに各種の調帯、ホーン及びパッキング」について使用される場合、「チエン」の文字は指定商品の一を表わす商品名の表示であり、また「株式会社」の文字は原告の会社法上の種類を表示するものに外ならず、商法上会社の種類の表示はこれが使用を強制されているものであるから、これらの文字は、指定商品、ことに原告会社が商号中に採用することにより、その主要商品と認められるチエン類の取引について考察すれば、取引者及び需要者の大多数に取つては、必ずしも原告の商品を他の同種商品と区別して指示し、認識するについての目安とはならず、ことに簡潔をたつとぶ取引界においては、本件商標を付した原告の指定商品は、本件商標中その特徴をなす「報国」の文字を以て呼ばれ、認識される場合が最も多いと解せられる。
してみれば、原告の出願にかゝる本件商標は引用にかゝる登録商標と、その称呼及び観念を共通にするものであるから、互に類似する商標と判断せられる。しかも両商標の指定商品が互に牴触するものであることは、先に認定したように当事者間に争のないところであるから本件商標は、商標法第二条第一項第九号により登録することができないものといわなければならない。
原告代理人は、商標の特別顕著性有無の認定に関する特許庁と弁理士会との協議決定事項及び商標法第二条第一項第五号の規定を引用し、商号商標の審査においては商標を分離摘裂して審査することは許されないものであり、ことに商標の要部なるものは、商標の特別顕著性の有無の判定においても、他の登録商標との類否の判断においても同一でなければならないから、原告会社の商号からなる本件出願商標についても、これを前述のように「報国」と他の部分とに分離して考察することは不当であると主張するが、いわゆる商標の特別顕著性の有無は、ある特定の商標自体について、これを指定商品について使用した場合、その商品が右特定の者の生産、販売等の業務に係るものであることを認識せしめ、他の者のこれら業務に係る商品と区別させることができるかどうかによつて、決すべき問題であり、商標法第二条第一項第九号にいう商標の類否は、登録出願にかゝる商標が他人の登録商標と同一又は類似の商品について使用された場合、その取引者需要者がこれら商標を付した商品を彼此互に取り違えるようなおそれがあるかどうかによつて判定すべき問題であるから、両者の判定に対する態度が必ずしも同一でなければならないものとは解されず、ことに後者の判定は、一応特別顕著性があつて登録の要件を具えた出願の商標について、改めて他の登録商標との間に前述するような関係があるかどうかを判断するものであるから、たとい商標の要部なるものについて考察しても全然同一のものといわなければならないものとは解されない。たとえばありふれた氏名に指定商品の商品名(普通名称)を付した商標の如きは、通例それ自体においては特別顕著性を有しない場合が多いであろうが、両者が結合して永年にわたり使用され、原告代理人の主張するようにいわゆる著名商標となつた場合には、特別顕著性を有するにいたることは疑のないところであつて、この場合その商標の要部は両者の結合自体に認められるところが大部分であろう。しかしながらその後世上その著名商標の一部ことに氏名の部分のみが同一又は類似する商標を、同一又は類似の商品に使用する者がある場合、取引者需要者はともすれば、両者を彼此互に取り違え不測の損失を招くようなおそれが十分に考えられ、この場合いわゆる商標の要部は、結合自体にこれを求めず、その一部に求めることが妥当であろう。そして原告代理人が商標法第二条第一項第五号の規定を引いて主張するところも、結局右設例のそのまゝ当てはまるところと解せられるから、以上の主張はこれを採らない。また原告代理人は、商標法第二条第一項第九号についての数多くの既登録例及び特許庁における取扱例(その成立に争のない甲第十三号証から第二十号証まで及び甲第二十六号証から第三十一号証)を引用して、本件出願商標が登録せられるべきものであることを主張するが、単に既取扱例のみを問題とすれば、原告の主張するところとまさに反対と見られる事案(その成立に争のない乙第二号証の各証)も存在することがうかがわれるばかりでなく、商標の類否の判定、従つて登録の許否の如きは、各出願の商標について指定商品との関連において登録時における取引の実情を顧慮して決定すべきであつて、かつてなされた他の事件の判断が必ずしも本件について当てはまるものでないことは、原告代理人も認容するとおりであり、前記各既登録例及び取扱例も、未だ前記三において説明した本件出願商標と引用登録商標との類否についてなした当裁判所の判断を左右するに足りるものとは解されない。
以上の理由により、原告の出願にかゝる本件商標は、商標法第二条第一項第九号の規定により登録すべからずものとなした審決は適法であつて、これが取消を求める原告の本訴請求はその理由がない。
〔編註〕 本件に関する商標は左のとおりである。
<省略>
本件出願商標
<省略>
引用登録商標
登録番号第360820号