大判例

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東京高等裁判所 昭和34年(う)162号 判決

被告人 竹前信雄

〔抄 録〕

弁護人の控訴趣意第一点について。

原判決が、その判示犯罪事実認定の証拠として、証人佐藤清美に対する裁判官の証人尋問調書、桜沢伝治、塚原利治、高橋新太郎の司法警察員に対する各供述調書を援用していること、及び原審においては、昭和三三年一〇月一五日の第五回公判期日及び同年同月二九日の第六回公判期日において、本件を簡易公判手続により審判する旨の決定をなし、爾来同手続によつて審理して来たところ、同年一二月五日の第八回公判期日において、右の決定を取り消し、公判手続を更新したものであること、並びに右第八回公判期日の公判調書中には、前示証人尋問調書及び各供述調書につき刑事訴訟法第三二六条の同意、不同意の記載がなく、その後においても、公判調書中にこれを明らかにした形跡の認められないことは、記録に照らしていずれも所論指摘のとおりである。これに対して所論は、簡易公判手続が取り消され、公判手続が更新されたときには、刑事訴訟法第三二〇条第一項が適用されることとなる結果、既に取り調べた証拠の証拠能力を再検討することとなり、取消前の段階で、訴訟関係人が異議を述べなかつたため取り調べられた証拠書類又は伝聞証拠についても、改めてこれを証拠とすることに同意するかどうかを確かめなければならないものであり、少くとも、証拠書類に関する限りは、更新の際の公判調書には、これを証拠とすることに同意するかどうかを明らかにし、且つ、取調の順序をも記載しておくべきものであるのにかかわらず、原審における右更新の際の公判調書には、前掲証人尋問調書及び各供述調書に対する同意、不同意の記載がなく、その後においても、同意不同意を求めた形跡もないのであるから、原判決は、刑事訴訟法第三二一条第一項第一号、第三号に違反するか、あるいは、刑事訴訟規則第四四条第一項第二二号に違反するものというべく、従つて、原判決には、右の点に関する訴訟手続に法令の違反があつて、その違反が判決に影響を及ぼすこと明らかである旨を主張するにより、審案するに、公判手続の更新の手続を規定した刑事訴訟規則第二一三条の二第三号中には、「更新前の公判期日における被告人若しくは被告人以外の者の供述を録取した書面又は更新前の公判期日における裁判所の検証の結果を記載した書面並びに更新前の公判期日において取り調べた書面又は物については、職権で証拠書類又は証拠物として取り調べなければならない。但し、裁判所は、証拠とすることができないと認める書面又は物及び証拠とするのを相当でないと認め且つ訴訟関係人が取り調べないことに異議のない書面又は物については、これを取り調べない旨の決定をしなければならない。」旨の規定は存するけれども、所論のような証拠書類につき刑事訴訟法第三二六条の同意、不同意を再検討してこれを明らかにすべき旨の規定はみあたらないばかりでなく、所論のように、同意、不同意を再検討してこれを明らかにすべきであると解するのが相当であるとしても、公判手続更新の際の公判調書の記載については、同規則第四四条第一項第三二号に、「公判手続の更新をしたときは、その旨及び次に掲げる事項イ被告事件について被告人及び弁護人が前と異る陳述をしたときは、その陳述口取り調べない旨の決定をした書面及び物」と規定してある外、同条第二項において、「前項に掲げる事項以外の事項であつても、公判期日における訴訟手続中裁判長が訴訟関係人の請求により又は職権で記載を命じた事項は、これを公判調書に記載しなければならない。」と規定しているのみであつて、同条第一項第二二号のような証拠書類に対する法第三二六条の同意を記載すべきことを命じた規定が存しないのであるから、本件において、原審が公判手続を更新した際の所論公判調書に所論各証拠書類に対する同意、不同意の記載がないからといつて、所論のような刑事訴訟規則第四四条第一項第二二号に違反するものということはできないものといわなければならない。なお、原審における右更新の際の公判調書(弁論終結の際の公判調書)の記載に徴するときは、右更新の際の公判手続特に所論各証拠書類の証拠調について、被告人や弁護人が異議を述べたり、又はこれら証拠書類の証明力を争つたような形跡が窺われない上に、その後、法定の期間内に、右公判調書の記載の正確性につき異議申立のあつた事実も認められないところであるから、前掲証人尋問調書及び各供述調書については、最高裁判所判例(昭和二八年(あ)第一五七四号同三〇年一月二五日第三小法廷決定)の趣旨をくんで被告人において証拠とすることに同意したものと解するのが相当であると考えられる。しかして、右証人尋問調書及び各供述調書につき供述がされたときの情況を考慮しても相当と認められるのであるから、原判決がこれを採つて有罪事実認定の証拠としたことは適法であつて、所論のような刑事訴訟法第三二一条第一項第一号、第三号に違反するものとは到底考えられない。してみれば、原判決には、所論のような判決に影響を及ぼすことの明らかな訴訟手続の法令違反があるものということはできないから、論旨は理由がない。

(中西 山田 鈴木)

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