東京高等裁判所 昭和34年(う)1784号 判決
被告人 田中忠雄 外一名
〔抄 録〕
弁護人の控訴趣意第二点について。
原判決が、その理由中罪となるべき事実の末尾において、「(前略)その際右一連の暴行又は姦淫の行為により同女に対して約五日間の治療を要する左胸部及び大陰唇擦過傷を負わしめたが右傷害が同人のまた右如何なる時点の暴行又は姦淫行為に因つて生じたか明らかでないものである。而して被告人田中、同内田の叙上の行為は包括した単一犯意の下に行われたものである。」と判示しながら、法令の適用において、被告人両名に対してのみ刑法第一八一条、第一七七条前段、第六〇条を適用して強姦致傷罪の共同正犯に問擬し、他の共犯者たる原審相被告人剣持、同酒井、同小暮の三名に対しては、いわゆる承継的共同正犯の理論を引用して、同人らが原判示犯行に介入した時以後の行為についてのみその責に任ずべきものであるとし、同法第一七七条前段、第六〇条を適用して強姦罪の共同正犯に問擬していることは、所論のとおりであつて、これに対して所論は、承継的共同正犯の概念からみれば、自己介入前の先行者の行為を認識して介入した場合には、後行者は、介入前の先行者の行為をも含めて犯罪行為全体についての責任を負うべきものであるのにかかわらず、原判決が、共同正犯概念の理論的混同から、後行者たる剣持、酒井、小暮の責任を被告人両名と別個に論じているのは誤である。又、原判決は、原判示寺田カツエに対する致傷の点について、罪となるべき事実としては、前示のように、何人のまたいかなる時点における暴行又は姦淫行為に因つて生じたか明らかでないと判示しながら、被告人両名に対してのみ強姦致傷罪の責任を負わしめ、前示原審相被告人らに対して同様の責任を認めないのは、明らかに不当である。もし、先行者たる被告人らが致傷の結果を負うべきであるならば、後行者たる原審相被告人らも同様致傷の責任を負うべきであり、原審相被告人らにおいて、致傷の責に任じないものならば、被告人らに対しても、その責を負わしむべきではない。しかして、原判決の認定するように、右傷害が何人の又いかなる時点の暴行又は姦淫行為に因つて生じたか不明であるとの見解によれば、後行者を強姦致傷罪に問擬することが許されないことは当然であると共に、逆に、先行者たる被告人両名の暴行又は姦淫行為に基因することの証明のない限り、右被告人両名に対し強姦致傷罪に問擬することも許されないものである。以上により、原判決には、法令の適用に誤があつてその誤が判決に影響を及ぼすことが明らかである旨を主張する。
よつて考察するに、共同正犯において、共同者中のある者が実行行為の一部を終了した後、他の者との間に意思の連絡を生じ、爾後共同して実行行為を行う場合を意味するいわゆる承継的共同正犯にあつては、途中から介入した者即ち所論のいわゆる後行者において、自己介入前における先行者の行為を認識して介入した場合には、右介入前における先行者の行為をも含む犯罪行為全体についての責任を負うべきものと解するを相当とすることは、所論のとおりであつて、かつ、結果的加重犯である強姦致傷罪につき、数名の者が共謀の上婦女を強姦し因つて傷害を与えた場合においては、何人が致傷の結果を生ぜしめたか明確でなくても、共犯者は、等しく共同正犯として強姦致傷罪の責任を免れないことは、最高裁判所判例(昭和二五年(れ)第三一二号同年六月六日第三小法廷判決、昭和二四年(れ)第九三三号同年七月一二日第三小法廷判決)の示すところであるから、原判決が証拠によつて被告人両名及び前記原審相被告人らの原判示犯行を認定した上、前示のように、右共犯者らの一連の暴行又は姦淫の行為に因り同女に対し約五日間の治療を要する左胸部及び大陰唇擦過傷を負わしめたが右傷害が何人のまた右如何なる時点の暴行又は姦淫行為に因つて生じたか明らかでないものである旨認定している本件においては、被告人田中、同内田両名はもとより他の共犯者たる原審相被告人剣持、同酒井、同小暮ら全員が等しく共同正犯として強姦致傷罪の責任を負うべきものというべく、従つて、原判決が、被告人田中、同内田両名に対してのみ強姦致傷罪の責任を認め、他の共犯者たる前示原審相被告人らに対してその責任を負わしめなかつたのは、明らかに法令の適用を誤つたものといわなければならない。しかしながら被告人田中、同内田の両名は、当初より共謀の上原判示犯行に出た者であつて、いわゆる承継的共同正犯につきいずれの見解に従うとしても、強姦致傷罪の刑責を免れ得ないことが極めて明白であるから、原判決が被告人両名に対し、刑法第一八一条、第一七七条前段、第六〇条を適用したのは正当であつて、原判決には、被告人両名に関する限りにおいては、この点につき法令の適用に誤があるものということはできない。そして原判決中他の共犯者たる原審相被告人剣持、同酒井、同小暮に対する部分は、既に確定しているものであつて、被告人田中、同内田のみの控訴にかかる本件の審判においては、これをいかんともすることができないものであるばかりでなく、右原審相被告人らに対する法令適用の誤が被告人田中、同内田両名に対する判決に影響を及ぼすものとも考えられないから、原判決には、所論のような判決に影響を及ぼすことの明らかな法令の適用に誤があるものということはできない。論旨は理由がない。
(山田 岸上 鈴木)