大判例

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東京高等裁判所 昭和34年(う)200号 判決

被告人 戸村善一 外二名

〔抄 録〕

所論は原判示第二事実の日記帳は未だ差押えられたものでなく公務所の用に供する文書となつていなかつたものであり、被告人戸村善一は右日記帳が差押えられた物又は公務所の用に供する文書であるとの認識がなかつたのであつて、これらの点につき原判決には事実の誤認があると主張する。しかしながら、原判決挙示の対応証拠殊に証人大山雅清の原審公判廷における供述、銚子簡易裁判所裁判官作成の捜索差押許可状、司法警察員作成の昭和三二年八月三日付捜索差押調書、並びに当審においてなした検証の結果、当審において取調べた証人大山雅清の証言を総合すれば、司法警察員海上保安官大山雅清は、被告人戸村善一に対するさけます流網漁業取締規則違反被疑事件につき証拠物蒐集のため昭和三二年八月三日被告人戸村善一方に臨み裁判官の発した捜索差押許可状を示して捜索をなし、同家玄関脇畳二畳敷の事務室内南側の鋼製書庫上の本立にあつた日記帳に右被疑事件の証拠とするに適切な第一及び第三だるま丸が採捕して水揚げしたさけますの数量が記入されているのを発見し、その日記帳を証拠物として差押えることとし、同室内で捜索に従事していた小野保安官に対し「三号の水揚等が書いてあるよ、証拠があつた」と云つて見せた後、自己の左足下の畳の上に置き、更に同本立の帳簿類の捜索を続けていたところ、被告人善一が右日記帳を取り上げて内容を見ているのを発見したので、大山保安官は同被告人に対し「それは差押えたものであるから勝手に手にしてはいけない、返して下さい」と申渡し、同人よりこれを受取つて左脇にかかえたまま捜索を続け、次いで同室内北側にあつた桐製書類タンスの捜索にかかつたが、捜索の便宜のため左脇にかかえていた前記日記帳を右桐製タンスの上に一時置いてタンス抽出内を捜索していた隙に乗じ、被告人善一において右日記帳を取り上げ附近の倉庫に持ち去り、右日記帳のうち前記事件の証憑となるべき漁獲高の記載してあつた部分数枚を破り取りこれをマツチで点火して焼燬した事実が認められ、被告人善一の供述中右認定に反する部分は前記各証拠に照し措信し難い。しかして右認定によれば大山保安官が被告人善一に対し日記帳を「差押えた物であるから勝手に手にしてはいけない、返して下さい」と申し渡して同被告人より受取つたとき差押をしたものであつてこの時日記帳は公務所の保管に移り公務所の用に供する文書となつたものと見るのが相当である。更に証拠によれば被告人善一は桐製書類タンス上にあつた日記帳を持ち去り破り取り焼燬する時においてそれが差押えられた物であり公務所の用に供する文書となつたものであることを認識していた事実が認められる。なるほど、被告人善一が日記帳を持ち去り焼燬した時、未だ差押調書が作成されておらず、押収品目録の作成交付がされていなかつたことは所論のとおりであるが、それらは差押の効力自体には何等影響を及ぼすものではないといわなければならない。従つて、原判決が、右日記帳は大山保安官が差押えて公務所の用に供する文書となしたものであり、又被告人善一がこれを認識しながらその一部を破り取つて焼燬した旨認定して刑法第二五八条を適用処断したのは正当であつて、記録並びに当審における事実取調の結果を精査検討しても、所論のような採証法則違背、事実誤認の廉は存しないから論旨は理由がない。

(長谷川 白河 関)

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