大判例

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東京高等裁判所 昭和34年(う)2479号 判決

被告人 木本宏

〔抄 録〕

所論は原判決は被告人が酒に酔い正常な運転ができない虞があるにもかかわらず軽自動車を運転したと認定したが、被告人が酒に酔い正常な運転ができない虞があつたと認めるに足る証拠はない。被告人は当日夕刻ダブルのハイボール三杯位飲酒したことは相違ないけれども、被告人は相当酒量があるので、それ位で酔態に陥るものでなく、同日午後九時五十分頃検知器(酔度計)による検査の結果は呼気酒精度〇・〇一%で、他に顔に赤らみがあり幾らか酒の臭がした以外には外観上酔態の特徴として取り立てて指摘される点はなかつた。従つて当時被告人は原審証人上野亘及び同森寛の各証言により認められる酩酊運転として検挙する最後の標準である〇・〇四%或は〇・〇五%には達しておらず、又専門医が血液検査の上で一応酔つた状態としている血液中の酒精濃度〇・一%(呼気中の酒精度としては〇・〇二五%に該当するも)に達していない。すなわち、呼気中の酒精度〇・〇一%では酔いの程度としては如何にも軽徴で正常な運転ができない虞がある場合に達していないので原判決はこの点で法令の解釈適用を誤つている。要するに被告人は正常な運転ができない虞がある程酔つていなかつたので、被告人の有罪を認めた原判決には、判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認ないしは法令の適用に誤があるとの趣旨の主張をしている。

しかしながら、被告人の原審公判廷における供述、被告人の司法警察員に対する供述調書及び原裁判所で被告人において何ら異議を述べることなく証拠とすることに同意し適法に証拠調をなした飲酒酩酊鑑識カード(司法巡査飯田誠の署名押印あるもの)中の各記載、原審証人飯田誠、同上野亘、同森寛、同志村照吉の各供述等原判決が原判示事実認定の証拠として挙示した各証拠を総合すると、被告人は昭和三十三年三月九日午後七時頃から八時三十分頃迄の間東京都千代田区神田淡路町のバーで客と夕食を共にしたとき、ダブルのハイボール三杯位をのみ同所より軽自動車を運転し、同日午後九時十分頃原判示の道路上で警視庁久松警察署の交通係巡査飯田誠より停車を命ぜられたこと、同所で当初飯田巡査は無燈火で進行して来る被告人の車を五十米位先方に認めたところ、その車は目測時速三十五、六粁位の速力を以て二十米位の距離に近ずいた頃二回位車が左右にゆれるので、同巡査は折柄路上には歩行者もあることとて歩行者に危険であると考え提灯をふつて被告人の車に停車を求めたものであること、被告人は同所で飯田巡査の取調に際し、その身体は車によりかかつて居り、小便をしようとして車よりはなれ後向きになるや身体はふらふらとふらついていたこと、飯田巡査は始め無燈火運転として取り調べたけれども、被告人が酒臭く顔も赤いので、被告人が飲酒の事実を否定するに拘らず酩酊運転の嫌疑を抱き、酔度計検査をするからと云つて久松警察署までの同行を求めたところ、被告人は辞をかまえてこれに応じようとしなかつたこと、同所より久松警察署は徒歩五分位の距離にあり、飯田巡査はようやく被告人を同行の上同日午後九時五十分頃同署に到着し、係長の志村照吉警部補に事件の顛末を報告したが、その間被告人は机に腰かけていたので、志村係長は椅子にかけるよう注意したこと、ついで酔度計による検査の結果は、被告人の呼気中の酒精度は〇・〇一%であつたが被告人は言語がくどく、歩行は幾分ゆれて居り、目はやや充血し、顔はほんのり赤く、頭髪はやや前の方が乱れていたこと、交通取締に当つては、検査の結果呼気中の酒精度が〇・〇四%以上ある場合にはその者は重要悪質犯として送致することになつていること、土屋係長は被告人の呼気中の酒精度〇・〇一%は酔度よりすれば少い方と見たが、被告人が警察署に来るまでに相当の時間が経過している上に当日は寒夜であつたため酔のさめ方も早いものと考えられ、これに飯田巡査より報告をうけた被告人のそれまでの態度や本署における被告人の態度等を総合して、本件は酩酊運転に該当するものとして事件送致をなすに至つたことが認められる。

以上の事実を総合すると、被告人は本件犯行当時人の神経に対し麻痺性を有するアルコールの摂取に因り精神的統制は弛緩し、神経はにぶり、諸車を操縦する者に要求せられる機敏な判断力や細心な注意力の減退散漫を来しており、正常な運転ができない虞がある場合の状況にあつたものと認むるを相当とする。なるほど酔度計による検査の結果呼気中の酒精度が低弱であつたことは明らかではあるが、そのことのみを以て右認定に消長を及ぼすものとは認められない。道路交通取締法第七条第二項第三号の規定するところは、飲酒酩酊の場合はもちろん、その程度に至らないとしても、飲酒の結果、諸車を運転するに必要な判断力や注意力を欠き、正常な運転ができない虞がある場合にも、交通安全の見地からこれが操縦を禁止しているものと解すべきであるところ、被告人の本件犯行当時の状況が右の禁止せられた場合に該当するものであることは前記の如くである以上被告人は同法第七条第一項、第二項第三号、第二十八条第一号の責を免かれないものといわざるを得ない。従つて原判決が証拠により原判示事実を認定し、これに右法条を適用処断したことは正当である。その他記録を調査するも、原判決には所論のような事実誤認または法令違反の違法はない。論旨はいずれも採用に値しない。

(三宅 東 井波)

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