東京高等裁判所 昭和34年(う)305号 判決 1959年5月15日
被告人 増田政雄
主文
本件控訴を棄却する。
理由
(弁護人及び被告人の)控訴趣意に対する判断。
第一、本件捜索差押許可状には、差し押えるべき物として、「日記、メモ、住所録、往復文書、金銭出納簿、その他本件に関係ある書類一切」と記載されてあつて、この「本件に関係ある書類一切」とは、右のごとく「日記帳、メモ、住所録、往復文書、金銭出納簿」と記載された具体的な例示に附加せられたものであつて、同許可状に記載された詐欺(主食二重配給)被疑事件に関係があり、かつ右例示の物件に準じられるような一切の文書を指すことが明らかであるから、同許可状が憲法第三五条の要求する物の明示に欠くるところなきものと解すべきである(昭和三三年(し)第一六号同年七月二九日最高裁判所決定参照)それで所論は独自の見解に過ぎないものというの外なく、原判決にはこの点について憲法第三五条又は刑事訴訟法第二一九条の解釈を誤つた違法はない。
(その余の判決理由は省略する。)
(裁判官 尾後貫荘太郎 堀真道 本田等)
(注) 参考のため、本件で問題となつた捜索差押許可状を左に掲げる。なお、捜索差押許可状と同請求書との間に裁判官の契印が施されている。
捜
査
差
押
許
可
状
氏名
年令
三好春次こと
小松雄一郎
年
請求者の官公職氏名
司法警察員
日下部茂雄
右の者に対する詐欺被疑事件について、下記の通り捜索及び差押をすることを許可する。
捜索すべき場所、身体又は物
東京都目黒区富士見町一、五三三 小松勝子宅及び附属建物並に其の敷地一帯
有効期間
昭和二十九年十月三日まで
右の期間経過後はこの令状により捜索又は差押に着手することができない。又有効期間内であつても、その必要がなくなつたときは、直ちにこれを当裁判所に返還しなければならない。
差押えるべき物
日記帳、メモ、住所録、往復文書、金銭出納簿、其の他本件に関係ある書類一切
昭和二十九年九月二十六日
東京地方裁判所
裁判官 千葉和郎<印>
洋式第二十二号<省略>
被疑事実の要旨
被疑者は東京都目黒区富士見台一五三三番地において自己を世帯主とする主要食糧の配給を受けているに拘らず三好春次なる偽名を用いて米穀の二重配給を受けることを企て
一、昭和二十六年八月より昭和二十八年十月迄の間約百十数回に亘り東京都豊島区雑司ヶ谷一丁目三七一番地米穀販売業中島外吉方において同店係員に対し三好春次明治四十一年五月十五日生が東京都豊島区雑司ヶ谷一丁目三三八番地加藤一知方浅井幸栄の世帯員である旨虚偽の記載が為されている主要食糧配給通帳を呈示し米穀の配給を求め、因つて前記中島方係員をして真実三好春次なる者が前記浅井方の世帯員であり正規の配給を受けるものと誤信させ、其の都度米穀の配給を受け、右中島より米穀合計一五七、八五〇瓩を騙取し
二、昭和二十八年十一月二十四日頃より昭和二十九年九月十五日頃迄の間約五十数回に亘り東京都大田区西六郷一丁目七番地米穀販売業横田朝満方において同店係員に対し三好春次が東京都大田区西六郷一丁目十七番地に居住し、世帯主となつている旨虚偽の記載が為されている主要食糧配給通帳を呈示し、米穀の配給を求め、因つて前記横田方係員をして真実三好春次なるものが前記西六郷一丁目十七番地に世帯主として居住し正規の配給を受けるものと誤信させ其の都度米穀の配給を受け右横田より米穀合計六三、二二〇瓩を騙取したものである。