東京高等裁判所 昭和34年(う)645号 判決
被告人 馬場保太郎
〔抄 録〕
所論の要旨は、被告人の本件行為は宅地建物取引業法に定められている取引には該当せず、また被告人は業として本件行為を行つたものではないというのである。そこで記録を調査するに、原判決に挙示する証拠によれば、原判示第一事実の場合は、被告人は売主石井誠司と買主柳田平三の双方から原判示宅地建物の売買を依頼され、柳田を案内して同人に売買の目的物を検分させたり、売買代金について双方の申出を聞いて柳田のために石井に対し減額の交渉などをしてその取りまとめに尽力したり、登記の際は買主方の柳田初美を登記所に案内したりして終始右売買のあつ旋をし、且つその報酬として売主から一万円、買主から一万六千五百円の金員を受領したものであり、また原判示第二事実の場合は、借主平林茂子の依頼を受けて貸主谷内ハマ子方に同人を案内し、自ら谷内に対し平林に原判示家屋を貸与されたい旨申し出て両者の間をあつ旋し、貸借が成立するや平林に対しそのあつ旋の報酬として金四千円を要求してこれを受領している事実が認められるのであるが、被告人の右各所為はいずれも宅地建物取引業法第二条にいわゆる宅地建物の売買、貸借の媒介行為に該当するものと解するのが相当であり、また原判決に挙示する各証拠を総合考察すると、被告人が同種の行為を反覆継続する意思をもつて本件各媒介行為を行つたものと認めることができるから、被告人の本件所為が業としてなされたものであることも明白である。然らば原判決が被告人の所為を、所定の登録を受けないで業として原判示宅地、建物の売買、貸借の媒介をしたと認定したのは正当であり、この点原判決には何等法令の解釈を誤つた違法はない。
ただし原判決においては、被告人の本件各所為に宅地建物取引業法第十二条第一項、第二十四条第二号を適用しているが、被告人の本件各所為はいずれも昭和三十二年三月中に行われたものであるところ、同法第十二条、第二十四条は昭和三十二年五月二十七日法律第百三十一号により改正(同年八月一日から施行)されているから、被告人の本件各所為に対しては右改正前の同法第十二条、第二十四条第二号を適用して処断すべきであるに拘らず、原判決が前記のように改正後の同法条を適用したのは明らかに法令の適用を誤つたものといわなければならない。しかし昭和三十二年五月法律第百三十一号による同法第十二条関係の改正は、改正前の第十二条に新たに第二項を加え、同法第二十四条第二号は、改正前は「第十二条の規定に違反した者」とあるのを「第十二条第一項(無登録事業の禁止)に違反した者」と改正したのみであつて、無登録で宅地建物取引業を営むことの禁止(改正前の同法第十二条)とその罰則(改正前の同法第二十四条第二号)とは改正前も改正後もその内容に全然変更がないのであるから、原判決が本件について誤つて右改正後の法条を適用しても、その誤は何等判決に影響を及ぼさないものというべきである。従つて、原判決のこの瑕疵は原判決を破棄する理由とはならない。
(中西 久永 河本)