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東京高等裁判所 昭和34年(う)998号 判決 1960年2月13日

被告人 石塚誠也

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役一年六月に処する。

被告人から金六六、九六三円を追徴する。

但し、本裁判確定の日から四年間右懲役刑の執行を猶予する。

訴訟費用は第一、二審共全部被告人の負担とする。

理由

論旨第二点 原判決は審判の請求を受けなかつた事件につき判決した違法があるとの主張について、

原判決が判示第一の一の事実につき、起訴状には金七、五〇〇円の収賄の事実の記載があるのに、金一五、〇〇〇円の収賄を認定したのは所論のとおりである。しかし原判決挙示の証拠によれば、原判示の如く金一五、〇〇〇円につき収賄の成立することを肯認できるのであり、右は単に収賄金額の相違に過ぎず、同一公訴事実の範囲内に属すると認められるから、別に訴因変更の手続を経ることなく、収賄の金額を公訴事実を越えて認定したとしても審判の請求を受けない事実につき判決したことにはならず、また判決に影響ある手続法令の違反とも認められないから、論旨は理由がない。

そこで進んで原判示第四の一、二、の事実につき按ずるに、右事実は起訴状によると「被告人は大蔵事務官高橋佐久と共謀の上、昭和三一年八月下旬頃新潟税務署会議室において、吉川平一より昭和三一年度所得税に関する調査、賦課について便宜な取計らいをして貰うことの謝礼の趣旨で供与されるものであることを知りながら、現金二万円の供与を受け」た旨、高橋佐久と共謀による金二万円の賄賂を収受した旨の事実が記載せられているのであるがその後原審公判廷で検察官は、訴因の予備的変更申請をして、右事実を(一)昭和三一年八月下旬頃被告人が吉川平一方において同人から金一万円を収受した事実と、(二)同日頃、新潟税務署会議室で被告人が高橋佐久に、吉川から供与することの依頼を受けた現金一万円を供与して、以て吉川の贈賄の幇助をした事実との二つに分ち、原審は右訴因の予備的変更を許可した上、右変更後の訴因に基き(一)被告人の吉川方における金二万円の単独収賄の事実と、(二)その頃、吉川平一と共謀し同税務署会議室において高橋佐久に対し金一万円を贈賄した事実とを認定したものである。しかし、本位的訴因は被告人が高橋佐久と共謀し、吉川から金二万円を収受したという単一の収賄の公訴事実であるにかかわらず、これを吉川から金一万円を単独で収賄した事実と、贈賄者たる吉川と共謀して高橋佐久に対し、別個の機会に、別個の場所において、金一万円を供与して贈賄したとの二個の犯罪事実に訴因を変更するのは、本位的訴因事実の外、これに包含せられていない、しかもこれと併合罪の関係にある新たな贈賄の事実を附加するものであつて、右の本位的訴因と予備的訴因とは基本的事実関係を異にし、右の両者の間には公訴事実の同一性が存するものとは認め難い。従つて右の訴因変更は許されないものといわねばならない。しかるに、原審裁判所はこれを許して、右変更後の訴因に基き判決したものであるから、この点において原判決は審判の請求を受けない事件につき判決をした違法がある。よつて論旨は理由があり、原判決は破棄を免かれない。

しかして原判決は、判示事実を併合罪として一括して審理判決したものであるから、その余の論旨に対する判断を省略して、刑事訴訟法第三九七条第三七八条第四号第四〇〇条但書に則り原判決を全部破棄した上、検察官が当審において原判示第四の一、二の事実について訴因の予備的変更をしたのでこの点については右訴因に基き更に次のとおり判決する。

当裁判所が認めた罪となるべき事実及び証拠の標目は、原判示第四の一、二、三の事実を削除し、新たに同所に

第四、一、昭和三一年八月下旬頃、新潟市川岸町二丁目七番地砂利石油販売業吉川平一方において、同人から、同人の昭和三一年度の所得税の課税につき便宜な取計らいをされたいとの趣旨で贈与されるものであることを知りながら、現金二万円の供与を受け、以て自己の職務に関し賄賂を収受し、

二、被告人と同一の職務を担当する大蔵事務官高橋佐久と共謀の上、同年一二月一四日頃前記吉川方で、同人から右と同趣旨で贈与されるものであることを知りながら、現金五万円の供与を受け、以て自己及び右高橋の職務に関し、賄賂を収受し

と挿入した外、原判決のとおりであるから、これをここに引用する。

右の事実を法律に照すと、被告人の判示所為第一の一の点は、刑法第一九七条第一項後段に該当し、第一の二、第五、第六の一、二の各点は同法第一九八条第一項第六〇条罰金等臨時措置法第二条第三条に該当するので、いずれも所定刑中懲役刑を選択し、第二の一の点は刑法第一九七条の三第二項第一項第六〇条に該当し、第二の二、第三の一、二、第四の二の各点は、刑法第一九七条第一項前段第六〇条に該当し、第四の一は同法第一九七条第一項前段に該当するところ、以上は同法第四五条前段の併合罪であるから、同法第四七条本文第一〇条により、最も重い判示第二の一の加重収賄罪の刑に同法第一四条の制限に従つて法定の加重をした刑期範囲内で、被告人を懲役一年六月に処し、被告人が収受した各賄賂中被告人が現実に領得した、判示第一の一の現金七、五〇〇円、同第二の二の現金一万円、及び一、四六三円相当の饗応、同第三の一の六、〇〇〇円相当の夏物洋服布地一着分、及び二、〇〇〇円相当の饗応、同第三の二の現金五、〇〇〇円、同第四の一の現金一〇、〇〇〇円、同第四の二現金二五、〇〇〇円はいずれも没収できないから、刑法第一九七条の五により右価額の合計金六六、九六三円を被告人より追徴する。なお、本件犯行の動機、収賄額、及び被告人の性行、経歴等に顧み、被告人に対しては今回に限り前記本刑の執行を猶予し、自力更生の途を歩ましめるのを相当と認め、刑法第二五条第一項に則り、本裁判確定の日から四年間、右懲役刑の執行を猶予し、訴訟費用は刑事訴訟法第一八一条第一項本文により、第一、二審共全部被告人に負担させることとする。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 山本謹吾 渡辺好人 目黒太郎)

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