東京高等裁判所 昭和34年(け)4号 決定
被告人 武藤春雄
〔抄 録〕
申立人提出にかかる異議申立書の記載によれば、本件異議申立の理由は、被告人は、保釈取消決定のなされた日は、福島県白河市白河警察署に留置されていたため、制限住所に居住することができず公判期日たる昭和三四年三月四日に出廷することもできなかつたものである。保釈取消決定謄本は、同年同月同日弁護人たる申立人に送達されたが、被告人が白河警察署に勾留された通知は、同年同月六日にあつたものであつて、被告人の所在が判明した以上は、保釈取消の理由とならないものと思料するにより、原決定の取消を求めるため、本件異議申立に及んだ次第であるというにある。
よつて案ずるに、本件記録及び被告人武藤春雄外四名に対する窃盗被告事件の本案記録によれば、被告人武藤春雄は、右被告事件につき、昭和三三年五月一六日、前橋地方裁判所高崎支部において、第一審の有罪判決を受けた後、控訴の申立をなしまだ記録が同支部にあるうち、同年同月一九日、同支部において、保釈許可決定を受けて即日釈放された者であるが、該保釈許可決定には、保釈指定条件の三として、「東京都荒川区町屋一丁目七六番地新井うめの方に居住しなければならない。尚二十日以上の旅行又は転居の際は、予め書面を以つて裁判所に届出て、許可を受けなければならない。」旨の住居の制限が定められていたところ、被告人は、その後右制限住居に居住せず、裁判所に対し何らの届出もしないで、その所在が不明であつたため、昭和三四年二月二七日、検察官より、右被告事件の繋属する東京高等裁判所第九刑事部に対し、刑事訴訟法第九六条第一項第五号(被告人が住居の制限その他裁判所の定めた条件に違反したとき。)の理由により、保釈取消、保釈保証金没取の請求があり、同刑事部において、右の請求を理由があると認め、同年三月二日、「被告人に対し昭和三三年五月一九日前橋地方裁判所高崎支部がなした保釈決定はこれを取消す。保釈保証金参万円はこれを没取する。」との原決定がなされ、昭和三四年三月四日、該決定謄本が弁護人たる本件申立人に送達されたものであることが認められるのである。所論は、被告人は、右原決定のなされた日は、白河警察署に留置されていたため、制限住居に居住することができず、公判期日にも出廷することができなかつたものである旨主張するけれども、これを認むべき資料がないばかりでなく、被告人は、その以前から、即ち、保釈釈放後、裁判所の定めた制限住居には、昭和三三年一一月ごろ、一回顔を出しただけで、その他には、ここに居住していた事実がなく、裁判所に対して何らの届出もしなかつたため、その所在が不明であつたことが記録上明らかであるから、被告人は、前示保釈許可決定において裁判所の定めた条件に違反したものというべく、従つて、刑事訴訟法第九六条第一項第五号、第二項に則り、検察官の請求により、被告人に対する保釈を取り消し、保釈保証金の全部を没取した原決定は、正当であるといわなければならない。所論は、被告人の所在が判明した以上は、保釈取消の理由とならない旨主張するけれども、原決定が被告人の保釈を取り消したのは、前示のように、保釈の指定条件の違反を理由とするものであるから、単に被告人の所在が判明したとの一事によつては、原決定取消の理由とするに足りない。
(中西 山田 鈴木)