東京高等裁判所 昭和34年(て)2号 決定 1959年2月12日
申立人 五十嵐吉雄
主文
本件異議申立を棄却する。
理由
本件異議申立理由の要旨は、申立人は詐欺被告事件により昭和三三年一一月二七日最高裁判所第一小法廷において上告棄却の決定宣告を受け、その宣告結果の通知を同年一一月二九日受けたものであるところ、最高検察庁検察官は同年一二月二日右上告棄却決定は確定したものとして、東京高等裁判所が昭和三三年五月三一日言渡した申立人を懲役一年に処する(但し原審未決勾留日数中六〇日算入)旨の判決の執行指揮を為し申立人はその刑の執行を受けつつあるものであるが、この執行指揮は右上告棄却決定に対する異議の申立を為しうる期間中に、即ち未だ右上告棄却決定が確定しない間に為された違法無効の処分でおるからこれが取消を求める為に本件異議の申立に及ぶというにある。
よつて、申立人に対する昭和三三年(う)第一六九号詐欺被告事件の本案記録及び本件異議申立記録によれば、申立人が所論の如く東京高等裁判所において受けた判決に対し上告の申立を為したところ、昭和三三年一一月二七日最高裁判所第一小法廷において上告棄却決定の宣告を受けたこと、そして同年一一月二九日最高裁判所第一小法廷から右上告棄却決定が同年一一月二七日あつた旨の通知が申立人に為されたことを認めることができる。
而して、右上告棄却決定は刑事訴訟法第四一四条、第三八六条第一項第三号の規定によつて為されていることが右本案記録に編綴された上告棄却決定の謄本によつて明らかであるから、右決定に対しては同法第四一四条、第三八六条第二項、第三八五条第二項、第四二三条第一項に則り最高裁判所に異議の申立を為すことができる場合であり、その期間は同法第四二二条によつて、三日と認められる。(昭和三〇年(す)第四七号、昭和三〇年二月二三日最高裁大法廷決定、昭和三〇年(す)第一三四号、昭和三〇年五月二四日最高裁第三小法廷決定参照)
ところで、右の如き異議申立を含めて裁判に対する上訴の期間は裁判の告知をうけた日から進行する旨同法第三五八条に明記されているところ、刑事訴訟規則第三四条によれば、裁判の告知は公判廷においては宣告によつてこれを為し、その他の場合には、裁判書の謄本を送達してこれを為すべき旨定めているが、本件本案記録によれば、右上告棄却の決定は昭和三三年一一月二七日最高裁判所第一小法廷において裁判長裁判官入江俊郎により宣告によつて告知されていることが明白であるから、右決定に対する異議申立期間はその日から進行するものである。
従つて、右決定に対する異議申立期間は同年一一月三〇日をもつて満了し、その日の経過と同時に右上告棄却決定は確定したものである。故に検察官が同年一二月二日に為した所論刑の執行指揮は何等異議申立期間中に為された違法無効のものとは認められないのである。
所論は要するに同年一一月二九日(この日はなお異議申立を為しうる期間中である。)上告棄却決定のあつた旨の通知書の到達をもつて裁判の告知と誤解したことに基因するのであつて本件異議申立は理由のないものである。よつてこれを棄却すべきものとして、主文のとおり決定する。
(裁判長判事 山本謹吾 判事 渡辺好人 判事 石井文治)