東京高等裁判所 昭和34年(ツ)27号 判決
一般の民法上の委任は本来要式行為とはされていないのに、訴訟委任については特に民事訴訟法第八十条の規定を設け委任を証する書面を必要としているのは、右の書面を記録に添付しておいて、訴訟の進行上代理権の存否に関する争を防止し訴訟の円満迅速な進行をはかる趣旨に出たものである。従つて訴訟代理人の委任状又は代理権授与の証明書は訴訟手続開始の当初においてこれを裁判所に提出せしめるのが原則であるが、かかる委任状、証明書の提出がない場合でもその代理人が訴訟の進行中にこれを提出する見込があるときは裁判所はその補正を命じて一時訴訟行為を進行せしめることができる。(民事訴訟法第五十三条第八十七条)而して訴訟代理人が右の欠缺を補正しないで訴訟が終了した後、代理人の権限が争われるような場合は、右補正がないから当該訴訟委任が無効だということにしないで代理権の存否については、前記の書類に限らず一切の証拠方法を用いて証明することを許すのが相当であり、かくすることが訴訟代理権不存在確認等の訴訟をもつて争わしめるより却つて訴訟経済に合するものと解する。原判決によれば、原審は上告人等(上告人西島寅吉は後記事件の利害関係人として調停に参加)と被上告人間の横浜簡易裁判所昭和三十年(ユ)第五四号移転料請求調停事件に於て、同年九月二日午後一時の調停期日に訴外岡田ハルは上告人岡田邑治より委任状又は代理権授与の証明書は提出しなかつたが、岡田邑治より訴訟代理の委任を受けて出頭し、上告人岡田邑治の代理人として右調停を成立せしめたことを認定したものであり、その挙示の書証及び人証によれば右のような認定ができないわけではないから、原判決に所論の違法はない。
(梶村 岡崎 堀田)