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東京高等裁判所 昭和34年(ナ)9号 判決 1960年4月13日

原告 石毛慶次郎 外一三名

被告 東京都選挙管理委員会

補助参加人 川口清治郎

主文

昭和三四年四月二三日執行の東京都議会議員選挙の葛飾選挙区における当選の効力に関する原告らの異議申立につき、被告が昭和三四年八月一四日これを棄却した決定を取り消す。

右選挙における当選人川口清治郎の当選を無効とする。

訴訟費用中、原告らと被告との間に生じた部分は被告の負担とし、訴訟参加によつて生じた部分は補助参加人の負担とする。

事実

第一、原告ら訴訟代理人は主文第一、二項同旨並びに訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、その請求の原因として次のとおり述べた。

一、原告らは昭和三四年四月二三日執行の東京都議会議員選挙の葛飾選挙区における選挙人である。東京都葛飾区の選挙会(選挙長吉田藤吾)は開票の結果、候補者補助参加人川口清治郎は得票数一七、九二二票で最下位当選者、候補者訴外長瀬健太郎は得票数一七、九一八票で最高位落選者と決定した。原告らは右当選の効力につき昭和三四年四月二三日に被告に対し異議の申立をなしたところ、被告は同年八月一四日補助参加人の得票数は一七、九三二票、長瀬健太郎の得票数は一七、九二六票となるから、右選挙会決定の当選者には異動がないとの理由により原告らの異議申立を棄却する旨の決定をなし、原告らはその決定書の送付を受けた。

二、しかし、次に述べるとおり、被告が無効とした投票中には、長瀬健太郎に対する有効投票とすべきものがあり、又補助参加人に対する有効投票とした中には、無効とすべきものがあり、被告の判定には誤りがある。

(一)  本件選挙において被告が無効投票と決定した中に左記各投票(以下投票につき総て別紙目録記載の番号のみをもつて示す。)が存するが、いずれも長瀬健太郎に対する有効投票とせられるべきである。

(1) 15、94、108は、いずれも「ナガセ」と音感の類似に基く覚え違いによる誤記であるから、長瀬健太郎に対する有効投票とすべきである。

(2) 16は、由来日本人は冒頭に「一・・・」と記載する慣習があるところ、右慣習に従い選挙人がこれを記載したものであるから、他事記載と目すべきものではなく長瀬健太郎に対する有効投票と認めるべきである。

(3) 17、18、91は、長瀬健太郎を覚え違い誤記したものであり、しかも、18、91は名において一致しているから、同人に対する有効投票となすべきものである。

(4) 82は、不用意に( )を付したもので、有意の他事記載とは認められないから、長瀬健太郎に対する有効投票とすべきである。

(5) 83は、文字を書くことに不馴れな選挙人が書いたもので、「長瀬」と判読でき、名は略記したものであるから、長瀬健太郎に対する有効投票となすべきである。

(6) 84、86は、「長瀬」と音感の類似に基く覚え違いによる誤記であるから、長瀬健太郎に対する有効投票と認めるべきである。

(7) 85は、「ナガセ」の「ガ」の「ノ」及び「セ」の「」をいずれも不用意に書き落したものであるから長瀬健太郎に対する有効投票とすべきである。

(8) 89、90は、「長瀬」、「ナガセ」と音感等の類似に基く覚え違いによる誤記であり、なお長瀬の妻は既に死亡し、同人には一七年余も連れ添つて来た「永井ハツ」という女性がおり、同人は長瀬の選挙運動に献身して来たものである関係から、選挙人が「長瀬」、「ナガセ」を「長井」、「ナガイ」と覚え違いして誤記したものと認められるから、長瀬に対する有効投票と解すべきものである。

(9) 100は、候補者氏名欄に「長瀬健太郎」と記載されているから、同人に対する有効投票と認めるべきである。なお、投票用紙の表面に本件選挙と同時に執行された東京都知事選挙の候補者「東竜太郎」の氏名が記載されているが、これは選挙人が右記載の抹消を失念したものとみられるから、他事記載ではない。

(二)  本件選挙において被告が補助参加人に対する有効投票と決定した中には、左記各投票が存在するが、いずれも無効投票とせられるべきである。

(1) 4は、候補者以外の他事を記載したものであるから無効投票とすべきである。

(2) 5は、「川口」とは判読できず、単なる記号、符号の類又は雑事を不真面目に記載したものと認められるから無効投票となすべきである。

(3) 6、8、12はいずれも「川口」とは判読できず、雑事を記載したものであるから無効投票と認めるべきである。

(4) 7、9、10、11、13、36は、いずれも「川口清治郎」を記載したものとはみえず、候補者でない者の氏名を記載したのであるから、無効投票と判定すべきである。

(5) 14、37ないし47は、候補者川口清治郎と候補者青島清一とを混記したもので、いすれの候補者に投票したか判別できないものとして無効とすべきものである。又候補者青島清一は昭和三三年三月退職するまで教育家として長年葛飾区内の公立学校に奉職し、中学校、高等学校の職にあつたもので無所属として立候補し、補助参加人は社会党に属するところ、選挙人は社会党員たる補助参加人に投票したいが、同時に少年時代の恩師である青島清一にも投票したい心理から、右両候補を合一し、「川口清一」という架空的人物を記載したものともみるべきであるから、無効である。このことは被告が前記決定において「山田清治郎」、「川口秀厚」、「川口治三郎」なる投票をいずれも無効としたことからも明らかである。なお、44、45は特に訂正したものであつて、誤記とは認められない。

(6) 106は、他の用紙に右書きしたものを投票用紙にすり写したものであり、仮りに自書したものであるとしても、かゝる記載は日本文字によるものではなく、単なる記号、符号或は雑事を記載したものというべく、仮りにそうでないとしても、右記載は達筆であり、右のように達筆の投票者が左書きとするのは不真面目記載であるから、いずれの点よりしても無効と認めるべきである。

(7) 101、107は他事記載と認められるから、無効投票となすべきものである。

三、以上のとおりで、これを計算すると、長瀬健太郎の得票数は、一七、九四一票、補助参加人の得票数は一七、九〇六票となり、長瀬の得票数が補助参加人のそれより三五票だけ多くなることは計数上明らかであるから、長瀬健太郎が本件選挙における最下位当選者となるべきところ、補助参加人を最下位当選者とした葛飾選挙区の決定は誤りであり、これに対する原告らの異議申立を棄却した被告の決定は違法として取消を免れない。

四、補助参加人の主張に対し次のとおり主張した。

(1)  補助参加人の訴訟行為は被告のそれに牴触する範囲内では効力を生じ得ない。ところで、本件訴訟の前提である原告らの異議申立を棄却した被告の前記決定は、その理由において候補者たる長瀬健太郎及び補助参加人の各有効投票並びに無効投票から抽出した疑問票一二二票のうち、長瀬の有効投票としたもの五一票、補助参加人の有効投票としたもの二六票、残四五票は無効投票と認定しており、被告は本件訴訟において右認定を維持しこれを主張している。従つて被告の右認定及び主張に牴触する補助人の主張はこれを許さないものというべく、又かゝる主張は何らの効力を生じ得ないものというべきである。右が理由ないとしても、以下述べるところにより、補助参加人の主張は理由がない。

(2)  1・73ないし75、80、81、95、98、99、103ないし105、124は、いずれも「川口」又は「川口清治郎」とは類似性がないから、候補者以外の者を記載したものとして無効である。

(3)  2、72、102は、いずれも他事を記載したものとして無効である。

(4)  3、76は、いずれも「川口」と判読できず、単なる記号、符号又は雑事を記載したものとして無効である。

(5)  61ないし71、96は、いずれも明瞭に「山口」と記載されており、又本件選挙の葛飾選挙区における立候補者中に「山田秀厚」がおることによりしても、候補者でない者の氏を記載したものとして無効である。

(6)  77、は、「川口清治郎」と前記「山田秀厚」との混記で無効である。

(7)  78、79、92は、本件選挙の葛飾選挙区における立候補者中には「村田宇野吉」及び前記「山田秀厚」がおるから、これと「川口清治郎」との混記か又は候補者以外の氏を記載したものとして無効である。

(8)  87、88は、いずれも「川口清治郎」に対するものとは判読できないから、雑事又は他事記載として無効である。

(9)  97は、「川口清治郎」と本件選挙の葛飾選挙区における立候補者「石井治三郎」の混記であるから無効である。

(10)  19、20、22ないし31、35、49ないし51、54ないし56、60、112、113、117、118は、いずれも文字を書くことに不馴れな選挙人が「ナガセ」と記載しようとしてこれを誤記したものであるから、長瀬健太郎に対する有効投票である。

(11)  32は、文字を書くことに不馴れな選挙人が「長瀬」を誤記したものであるから、同人に対する有効投票である。

(12)  33、58は、いずれも本件選挙と同時に執行された東京都知事選挙の立候補者「東竜太郎」の名を「健太郎」と覚え違いして誤記したものであるから、長瀬健太郎の有効投票とするに妨げない。

(13)  48は、「長」の字の上半分「」が薄く書かれた跡が見受けられるから、長瀬健太郎に対する有効投票である。

(14)  52は、本件選挙における候補者中、その氏名の中に「長」の字を持つ者は「長瀬健太郎」以外にはならないから、同人に対する有効投票である。

(15)  53は、文字を書くことに不馴れな選挙人が「長瀬健太郎」に投票しようとして、その氏を片仮名で書き、続いてその名を「ケン」と書こうとして書き得ないで誤記したものと認められるから、同人に対する有効投票である。

(16)  57は、「長瀬健太郎」の氏を誤記し、「けん太郎」と判読できるから、同人に対する有効投票である。

(17)  109は、音感の類似から氏を誤記したものであるから、長瀬健太郎に対する有効投票である。なお、同人には一七年余連れ添つて来た「永井ハツ」という女性があり、選挙運動に献身してきたものであるから、選挙人が「長瀬」を「永井」と覚え違えて誤記したものと認められること前記のとおりである。

(18)  111は、文字を書くことに不馴れな選挙人がその名を略記したものであるから、長瀬健太郎に対する有効投票である。

(19)  34、115は、34はその名のうち「け」を「ち」と書き間違え「う」を落したものであり、又115はその氏を音感の類似から覚え違いして誤記し、その名の「ウ」を不用意に落したものと認められるから、いずれも長瀬健太郎に対する有効投票である。

(20)  116は、その名を選挙人が自己流に崩して記載したものと認められるから、長瀬健太郎に対する有効投票である。

第二、被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として次のとおり述べた。

一、原告ら主張の請求原因事実中、その一は認める、その主張のような投票のあつたこと、青島清一の経歴、補助参加人が社会党に属することは認めるが、その主張の投票の効力及びその余の事実はこれを争う。

二、原告らが候補者長瀬健太郎に対する有効投票とすべきものと主張する左記投票に対し、被告は次のとおり無効を主張する。

(1)  15、94、108及び84、86は、いずれも誤記とは認められないから候補者でない者の氏の記載もしくは候補者の何人を記載したか確認し難いものである。

(2)  16は、通常人の氏名を記載する場合「一、」を当初に記載することはないから、右は他事記載である。

(3)  17、18、91は、いずれも「長瀬健太郎」を誤記したものとは認められない。

(4)  82は、( )は不用意の記載とはみられないから、有意の他事記載である。

(5)  83は、第二字以下を「瀬健太郎」とは判読できなく、しかも右筆蹟は文字を書くことに不馴れな者が記載したものともみえないから、候補者の何人を記載したか確認し難いものである。

(6)  85は、第二字を「ガ」、第三字を「セ」とは判読できないから、候補者でない者の氏の記載もしくは候補者の何人を記載したか確認し難いものである。

(7)  21、89、90、110、114は、いずれも長瀬健太郎の近しい人に「永井ハツ」がおり、同人は区内で著名な人物であるから、候補者でない者の氏を記載したものとして無効である。なお、被告は右21、110、114は有効と決定したが、これは誤りで本来無効とすべきものである。

(8)  100は、他事を記載したものである。

三、原告らが補助参加人に帰属する投票と認定できないと主張する左記投票に対し、被告は次のとおり有効であることを主張する。

(1)  4は、その記載形態からみて「有田八郎」を消し忘れたものと認めるべきであるから、有意義の他事記載ではない。

(2)  5は、文字に習熟しない選挙人が記載したもので「川口」と判読できる。

(3)  6、8は、文字に不馴れな選挙人が誤記したもので、川口候補に対する有効投票である。

(4)  7、10、11、13、36は、音感又は字形等の類似に基く覚え違いによる誤記で「川口清治郎」に対する投票と解すべきである。

(5)  9は、文字に不馴れな選挙人が記載したもので、姓を逆書し、名は「次郎」と判読できるから、「川口清治郎」に対する有効効票と認められる。

(6)  12は、文字に習熟しない選挙人が「川」一文字では「かわ」の音を表示し得ないものと思い「わ」の送り仮名を付したものと認められるから有意の他事記載ではなく、又右仮名はその筆蹟形態から「口」を誤記したものとも認められるから、川口候補に対する投票である。

(7)  106は、文字を左書きして自書したものであるから、川口候補に対する有効投票である。

(8)  14、37ないし47は、いずれも「川口清治郎」に対する有効投票と判定すべきものである。即ち、立候補制度をとる現行選挙法の下においては、選挙人は候補者中の何人かに投票したものと推定すべきものであるから、諸般の状況から当該候補者に投票する意思で記載したものと認められる限り、該候補者の有効投票と解すべきである。ところで、「川口清一」なる投票は、氏において候補者「川口清治郎」と合致し、かつ名の核心をなす「清」において同候補者と一致しているから、たとえ他に「青島清一」なる候補者が存しても、右川口候補に対する有効投票と認めるのが妥当である。更にこのことは、右投票は総て第一開票区に存在しているところ、川口候補の住所は第一開票区にあり、その得票は殆んどが第一開票区(第一開票区一四、二七〇票、第二開票区三、六五二票)に存在するに反し、青島候補の得票はその大部分が第二開票区(第一開票区一、六四二票、第二開票区二、三八七票)に存することからみても明らかである。なお、44、45の各訂正は誤記によるものである。

(9)  101、107は、いずれも有意の他事記載と目すべきものではない。

第三、補助参加人訴訟代理人は次のとおり原告らの主張の理由のないことを陳述した。

一、投票の有効、無効に関する主張は、法律上の見解であつて、事実に関する主張ではない。従つて、補助参加人が被参加人たる被告の有効、無効に反し、独自の見解をもつてこれを主張したからといつて、原告らの異議申立を却下した被告の原決定を維持する目的に副う以上、補助参加人の訴訟行為は有効である。しかも、本訴において、被告は補助参加人の主張に対し決して積極的に反対の意思表示をなしていない。よつて、この点に関する原告らの主張は理由がない。

二、本件選挙において被告が無効投票と決定した中に、左記各投票が存するが、いずれも補助参加人に対する有効投票とせられるべきである。

(1)  1、73ないし75、80、81、95、98、99、103ないし105、124は、いずれも全体として補助参加人の氏名或は氏に最も近似し、又は補助参加人の名を誤記したものであるから、同人に対する有効投票と認めるべきである。

(2)  2、72、102は、2は「川口」の上部は書き損じであり、72は本件選挙と同時に行われた東京都知事選挙の候補者東竜太郎を記載しようとし「東りた」としたが、用紙の誤りに気付き、その上に濃く補助参加人の氏を記載したものであり、102は敬称を付記したものであるから、いずれも他事記載と目すべきでなく、補助参加人に対する有効投票と認めるべきである。

(3)  3、76は、3はその形態からみて「川口」と判読できるし76は下一字が不明であるが、向つて左側は書き損じを抹消したもの、右側は「口」の変形で、全体として「川口」を記載したものであるから、補助参加人に対する有効投票となすべきである。

(4)  61ないし71、96は、その観念及び字形からいつて「川口」に近似しているから補助参加人に対する有効投票と解すべきである。もつとも、本件選挙の候補者中に「山田」なる氏の者があるが、「山口」は「川口」により近似性を有しており、しかも本件選挙における山田候補の得票数は二、四四六票で、川口候補の得票数の七分の一にも過ぎないことからみても補助参加人に対する有効投票と認めるべきである。

(5)  77は、氏において「川口」と相違しているが、字形及び観念において関連性があるから「川口」の誤記と認めるべく、しかも「清治郎」と正記してあるから、本件選挙における候補者中に「山田秀厚」なる候補者があつても補助参加人に対する有効投票となすべきである。

(6)  78、79、92はいずれも、本件選挙の候補者中には「川田」なる者はなく、これに最も近似した氏は補助参加人「川口」であるから、これを誤記したもので補助参加人に対する有効投票と認めるべきである。

(7)  87、88は、87はその氏を「川口」と正記し、その名は「じラオ」と判読できるから「清治郎」の不完全記載であり88は第二字目は「口」を誤記したものであり、その下部の記載は書き終つた後に不用意に付したもので有意の他事記載ではないから、いずれも補助参加人に対する有効投票とみるべきである。

(8)  93は、補助参加人に対する有効投票と認めるべきである。

(9)  97は、その氏を「川口」と正記しているから本件選挙における候補者中に「石井治三郎」なる候補者があつても氏名全体からみて「川口清治郎」に近似しており、「治三郎」は「清治郎」を誤記したものとみられるから、補助参加人に対する有効投票と判定すべきである。

(10)  120ないし123は、補助参加人の氏に近似しているから、同人に対する有効投票である。

二、本件選挙において、被告が長瀬健太郎に対する有効投票と決定した中には、左記各投票が存在するが、いずれも無効投票とせられるべきである。

(1)  19、20、22ないし31、35、49ないし51、54ないし56、60、112、113、117、118は、これだけの記載をもつて「ナガセ」を表示したものとはいえなく、25、29、60は字の体をなしていないし、24、49、55は本件選挙における候補者には「原田」、「村田」、「山田」という氏の者がおるから、長瀬に対するものとはみられなく、いずれも無効投票となすべきものである。

(2)  21、32、110、114は、長瀬健太郎の氏とはその発音を異にしているから誤記とは認められない上に、本件選挙区内には「永井ハツ」という著名な人物があるから、同人に対する投票とすべく、従つて無効投票と認めるべきである。

(3)  33、58は、いずれも同時に行われた都知事選挙候補者東竜太郎の名を明記してあるから、二人以上の氏名を混記したものとして無効投票とすべきである。

(4)  34は、その名において相違しているから、長瀬健太郎に対する有効投票とすべきではない。

(5)  48は、その第一文字は読むことができないから、他事記載として無効投票である。

(6)  52は、氏又は名において「長」の字を有する者は世間一般に極めて多いから、右一字をもつてしては未だ「長瀬」を表示したものとはいえないから、無効投票と判定すべきである。

(7)  53は、これをもつて「長瀬健太郎」を表示したものとは考えられず、かつ下二字は他事記載とみる外はないから、無効投票となすべきである。

(8)  57は、「長瀬健太郎」とはその氏名を異にし、かつ名の「」は同時に行われた都知事選挙候補者「東竜太郎」の「りゆ太郎」にも近似しているから、長瀬候補に対する有効投票となすことはできない。

(9)  59は、長瀬候補に対するものとは認められないから、無効投票となすべきである。

(10)  109は、長瀬健太郎の選挙区内には「永井ハツ」なる著名の人物が存在すること前記のとおりであるから、選挙人が耶喩的に右両者と組み合わせて投票したものであり、そうでないとしても氏において「永井」は「長瀬」に近似していないから、無効投票と認めるべきである。

(11)  111は、その下半分は単なる記号で他事記載と目すべく、無効投票と認められる。

(12)  115は、氏が「長瀬健太郎」と異なるから同人に対する有効投票となすことはできない。

(13)  116は、下三字はと読まれ、全体として「長瀬はほす」即ち「長瀬はボス」と記載したものとみられるから、他事記載として無効投票となすべく、又右三字は「」即ち「はつさん」と読めないこともないから、選挙人が前記「永井はつ」に投票せんとした悪戯のものと考えられ、この点よりしても無効投票と認めるべきである。

(14)  119は、長瀬候補に対するものとは認められないから、無効投票となすべきである。

三、補助参加人は原告ら主張の第一の二の(一)及び(二)に対し次のとおり主張した。

(1)  82は、その( )が他事記載であるから無効である。

(2)  83は、第一字のみ「長」と読まれるが他は文字の体をなしていないから、何人を記載したか不明であり、もしくは他事記載として無効である。

(3)  84は、第二字は体をなしていなく、これを「瀬」と解し得るとしても「柳瀬」と「長瀬」とは語感が異なり、その第一字の字形が全然相違するから、候補者長瀬に投票したものとなすことはできない。

(4)  85は、その第二字は字の体をなしていなく、最後の文字は「フ」と読まれるから、これをもつて候補者長瀬を表示したものとは考えられない。

(5)  86は、「長瀬」とは甚だしく文字の感じが異なるから、同人に投票したものとはみられない。

(6)  89、90は、右各投票の最後の文字「井」、「イ」は「瀬」、「セ」とは発言も字形も異なり候補者長瀬に投票したものとは認められない。又本件選挙区内に前記「永井はつ」なる者がおるから、右各票は同人に投票したものというべきである。

(7)  91は、その氏において「長瀬」とは字形も語感も相違しているから、候補者長瀬の有効投票とすることはできない。

(8)  94は、その記載をもつて「ナガセ」の誤記とすることはできなく、これを漢字で書けば「柳瀬」となるから右(3)と同一の理由により、候補者長瀬の有効投票となし得ない。

(9)  100は、その表面に「東竜太郎」と明記されているから無効である。

(10)  5は、「川口」と判読できるから補助参加人に対する有効投票である。

(11)  6は、「かわぐつ」と記載したものとみられるから補助参加人に対する有効投票である。

(12)  8は、第四字は「チ」の誤記とみられるから補助参加人に対する有効投票である。

(13)  12は、文字の殆んど書けない者が「川」の下に不要な「わ」を送字したものと考えられ、本件選挙候補者中に「川」の字を有する者は補助参加人以外にはならないから、補助参加人に対する有効投票である。

(14)  7、10、11、13は、いずれも「川口清治郎」に近似しているから、これを誤記したものと考えられ、同人に対する有効投票である。

(15)  9は、氏は「川口」を逆に記載したもの、名は「次郎」と判読できるところ、補助参加人の氏名を良く記憶せず文字の十分書けない選挙人が補助参加人に投票しようとしてこれを誤記したものであるから、同人に対する有効投票である。

(16)  14、37ないし47は、いずれも補助参加人に投票しようとしてその名を誤記したものであり、本件選挙の候補者中に「青島清一」がおつたとしても補助参加人に対する有効投票とするに何ら妨げないものというべきである。

(17)  101は、有田八郎を抹消線で抹消したが、更に念を入れて「取消」と書き加えたものであるから、他事記載ということはできなく、補助参加人の有効投票である。

(18)  106は、自書に基くものであり、かつ左書文字も文字たるに妨げないから、補助参加人に対する有効投票である。

(19)  107は、名において補助参加人の「郎」を書き落したものであり、かつ投票用紙表面の記載部分の抹消を忘れたに過ぎないから補助参加人に対する有効投票である。

第四、(証拠省略)

理由

一、原告らが昭和三四年四月二三日執行された東京都都議会議員選挙の葛飾選挙区の選挙人であること、右選挙会の開票の結果、原告ら主張のように補助参加人が最下位当選者、長瀬健太郎が最高位落選者と決定され、原告らがこれにつき被告に対し異議の申立をしたが、その主張の理由で棄却され、決定書の交付を受けたこと、被告が無効投票と決定し、又補助参加人に対する有効投票と決定したもののうち原告らの主張のような各投票の存在すること、被告が無効と決定し、又長瀬健太郎に対する有効投票と決定したもののうち補助参加人主張のような各投票の存在すること、本件選挙の立候補者中に青島清一がおること及びその経歴並びに補助参加人が社会党に属することは、いずれも当事者間に争がなく、原告らが前記決定書の交付を受けた日から三〇日以内に本訴を提起したことは本件記録上明白である。

二、成立に争のない乙第一号証の一、二によると、本件都議会議員選挙の葛飾選挙区における候補者は、水戸三郎、原田忠之輔、長瀬健太郎、村田宇之吉、石井治三郎、片山嘉太郎、宮沢道夫、青島清一、山田秀厚及び補助参加人(川口清治郎)であり、本件選挙の第一開票区における補助参加人の得票数が一四、二七〇票、青島清一の得票数が一、六四二票、第二開票区における補助参加人の得票数が三、六五二票、青島清一の得票数が二、三八七票であることが認められる。

三、原告らの主張について。

(一)  原告らは本件選挙において被告が無効と決定した左記各投票は、長瀬健太郎に対する有効投票と認めるべきであると主張するので、まずこの点から順次判断する。

(1)  ヤナセ(15、94、108)と記載された投票は、候補者中右に最も近以するのは長瀬であると認められ、他にこれに類似する者がいないことからみて、選挙人がこの近似に基く覚え違いにより候補者長瀬健太郎の氏を片仮名で記載するに当り誤記したものとして、同候補者の有効投票と認めるべきである。

(2)  一、長瀬健太郎(16)と記載された投票は、氏名を書く場合、その冒頭に「一、」を記載することは、普通の事例ではないから、他事を記載したものとして無効投票と解すべきである。原告らは、由来日本人は冒頭に「一、」を記載する慣習があり、選挙人は右慣習に従つてこれを記載したものと主張するが、かかる慣習が存在するものとは認められなく、又右「一、」はその記載形態からして不用意に書かれたものとは思われないから、右主張はこれを排斥する。

(3)  川瀬進太郎(17)と記載された投票は、氏と名ともに候補者長瀬健太郎とは相違しており、かつ明瞭に記載されていることからしても、到底右候補の氏名の覚え違いによる誤記とみなすこことはできないから、候補者でない者の氏名を記載したものとして、無効と解すべきである。

(4)  中沢健太郎(18)、宮崎健太郎(91)と記載された投票は、その名において候補者長瀬健太郎と一致しておるけれども、いずれもその氏において著しく相違しており、かつ明瞭に記載されておることからみて、誤記したものとは認められないから、候補者でない者の氏名を記載したものとして無効とすべきである。

(5)  (長瀬)(82)と記載された投票は、候補の氏の上下に( )の他事を記載したものとして無効と解すべきである。原告らは選挙人が不用意にこれを付したにすぎないと主張するが、その記載形態からして不用意のものとは認められない。

(6) (83)と記載された投票は、第一字は「長」と明らかに記載してあるが、第二字以下は「瀬健太郎」を記載したものとは判読できず、いかなる文字を記載したものか明らかでなく、しかも右筆蹟は必ずしも文字を書くことに不馴れな者が候補者長瀬健太郎に投票する意思をもつて自己流に略記したものとも認められないから、候補者の何人に投票したか確認し難いものとして、無効とすべきである。

(7) (84)、成瀬(86)と記載された投票は、84については、その筆蹟からみて、文字を書くことに不馴れな選挙人が、候補者長瀬健太郎に投票すべく、その氏を音感の類似から覚え違えて「柳瀬」と書こうとして、瀬の文字を知らないために書き損じて消し、更に誤つた当字を記載したものとみられ、又86については、選挙人が候補者長瀬に投票しようとして、音感の類似から覚え違えて誤つて記載したものとみられ、しかも本件選挙における候補者中に「瀬」の文字のつく者は他に存在しないことよりして、いずれも右候補者の有効投票となすべきである。

(8) (85)と記載された投票は、その書体からみて、文字に不馴れの者が、候補者長瀬健太郎に投票しようとしてその氏を片仮名で「ナ」と書き「ガ」の「ノ」を書き落して「づ」と書き、次に一旦「セ」の字を漸やく書き得たのに、間違えたと誤解してこれを抹消し、「セ」の字の「つ」を書いたにとゞまり、「し」を脱落して誤記したものと誤められるから、同候補者に対する有効投票と判定すべきである。

(9)  長井(89)ナガイ(90)と記載された投票は、音感等において候補者長瀬健太郎の氏と通じ易く類似しており、かつ本件選挙における候補者中には「長」「ナガ」の文字及び音を有するものは存在しないことからみて、選挙人が同候補に投票しようとして、これを誤記したものと認められるから、いずれも同候補に対する有効投票と解すべきものである。本件選挙区内に候補者長瀬健太郎と長年連れ添つていた「永井ハツ」なる著名な人物がおるとしても、選挙人は立候補したものに投票したものと推定すべきであるところ、同人は本件選挙に立候補しなかつたから、同人あての投票とみるべきではない。

(10)  候補者氏名欄に長瀬健太郎、投票用紙の表面に東竜太郎(100)と記載された投票は、本件選挙と同時に執行された東京都知事選挙の候補者東竜太郎の氏名をも投票用紙の表面に併わせ表示しているが、都議会議員選挙用紙の候補者氏名欄に候補者長瀬健太郎と明記されておる以上、選挙人が右用紙を使用して投票していること及び投票はなるべく有効に解釈すべきことよりして、選挙人は同候補に投票する意思をもつてこれを記載したものであり、誤記した東竜太郎の氏名の抹消を不用意に失念したもので、これを他事記載と目すべきではないから、候補者長瀬に対する有効投票と認めるべきである。

(二)  原告らは次に、本件選挙において被告が補助参加人に対する有効投票とした左記各投票は無効となすべきものであると主張するので、この点について判定する。

(1)  投票用紙の候補者氏名欄に同用紙の表面に(4)と記載された投票は、前記三の(10)に説示したと同一の理由により補助参加人に対する有効投票と解すべきである。

(2) (5)と記載された投票は、川口とは判読できず、文字の体裁をなしていないから無効であるというべきである。しいてこれを判読すれば「川口」或は「山口」とみる外ないが、本件選挙における候補者の中には「山田」なる氏を有する候補者も存在するから、いずれの候補者に投票したか確認し難いものとして、この点からしても無効と認めるべきである。

(3) (6)、(8)(12)と記載された投票は、その文字の稚拙の点からみていずれも文字に不馴れな選挙人が補助参加人に投票する意思をもつて記載したもので、6については、第一字は片仮名の「カ」を記載したもの、第二字は平仮名の「わ」の誤記、第三名は「ぐ」と明記、第四字は「ち」と書き得ないで「ブ」と誤記したものであり、8については、第二字または「カワ」と容易に判読でき、第三字は平仮名の「ぐ」を書き得ないで「く」としたもの、第四字は「チ」の誤記であると認められるから、いずれも雑事を記載したものと目すべきものではなく、補助参加人に対する有効投票であり、又12については、「川」一字では「かわ」の音を表示し得ないものと思い違いし「わ」の送り仮名を付したものであり、かつ本件選挙の候補者中に「川」の字を有するものは補助参加人以外にはないところからみて、補助参加人に対する有効投票と解すべきである。

(4)  山口清十郎(7)、原口清次郎(10)、川口正四郎(11)、皮口政治郎(13)、山口政治郎(36)と記載された投票は、7及び36については、氏の第一字「山」は補助参加人の氏の「川口」の第一字と通じ対照的であるから覚え違いによる誤記と認められ、又その名において補助参加人の名の「清治郎」と音感が同一或は類似しているから、覚え違いによる誤記と認められ、10についてはその名において補助参加人のそれと音が一致し、ただ「次」の一字し相違しているだけであり、又その氏においてその第一字が補助参加人のそれと相違しているだけであるから、ともに誤記と認められ、11については、その名における発音において補助参加人と一字相違するだけであるから誤記と認められ、13については、氏名とも発音において補助参加人のそれと同一であり、単に氏の第一字が文字において相違するだけであるから誤記と認められ、いずれも補助参加人に対する有効投票と解すべきである。

(5) (9)と記載された投票は、「川口清治郎」とは著しく相違し、又その筆蹟からみて、必ずしも文字を書くことに不馴れな選挙人が補助参加人に投票しようとして「川口」を逆記し、「治郎」の覚え違いによる誤記とは認められないから、候補者でない者の氏名を記載したものとして無効とすべきである。

(6)  川口清一(14、37ないし43、46、47)、(44)、川口(45)と記載された投票は、14、37ないし43、46、47については、立候補制度をとる現行選挙法の下においては選挙人は候補者中の何人かに投票するのを通常と認めるべきであるから、投票に記載した候補者の氏名を正確に記載していなくても、その記載の候補者の氏名に類似の候補者が存在し、反対の特段の事情の認められない限り該候補者の有効投票と解すべきである。この点よりみるに、右「川口清一」なる投票は、氏において完全に候補者「川口清治郎」と合致し、名の中心をなす「清」において同候補と一致しており、しかも通常人の名に「一、」「二」、「次」、「治」というような数字又は数に関係ある文字を用いたものは、とかく誤り易いことに徴し、本件選挙における候補者中に原告ら主張の経歴を有する「青島清一」なる候補者が存しても、氏名を全体的にみた場合、「川口清一」は「川口清治郎」に近似しているから、「清治郎」の覚え違による誤記と認められ、補助参加人に対する有効投票となすべく、原告ら主張のように右両候補者の氏名を混記したものとも、又その主張の心理的過程から架空的人物を記載したものとみるは当らない。なお、原告ら例示の「山田清治郎」(77)、「川口秀厚」(93)、「川口治三郎」(97)が後記認定のように無効であるからといつて、本件の場合はその例を異にしており、前叙説示を論難する資料となし得ない。44、45については、叙上説明のように川口清治郎の名が誤り易く又熟知していないために選挙人が最初に記載した名に確信を持ち得ず、これを訂正し、誤記するに至つたものであると認められるから、補助参加人に対する有効投票と認めるべきである。

(7) (101)と記載された投票は、投票に不馴れな選挙人が当初本件選挙と同時に執行された都知事選挙の投票用紙と思い違いし、その候補者「有田八郎」の氏名を記載したが、これが誤りに気付き、棒線をもつて、これを抹消し、更に抹消の意を明らかにするため「取消」と記載し、改めて川口候補の氏名を記載したものと認められるから、有意の他事記載と目すべきではなく、又記載された名の一部「字」は治の誤記と認められるから、補助参加人の有効投票となすべきである。

(8) (106)と記載された投票は、その筆跡書体からみて右書きの型紙を使用して写筆したものではなく、自書によるものであり、又左書き文字たるを失わないから、これをもつて単なる記号或は雑事を記載したものとはいえないし、字体から判断して不真面目記載とも認めらなれいから、選挙人が「川口清治郎」に投票する意思をもつて記載したもので、同人に対する有投投票と解すべきである。

(9)  候補者氏名欄に、投票用紙の表面に、と二重に記載された投票(107)は、その記載形態からみて、投票に不馴れな選挙人が記載場所を誤まつて川口候補の氏名を書き、それを訂正するため、更に正規の個所に記載したものであり、「、」の記載も氏名を書き終つた後に不用意に付した読点であることが認められるから有意の他事記載と目すべきものではないというべく、なお同候補の名の不完全な覚え違いにより「郎」の字を脱落したものと解されるから、同人に対する有効投票となすべきである。

四、補助参加人の主張について。

(一)  原告らは補助参加人の主張は、被告の訴訟行為に抵触する範囲においては無効であると主張する。しかし、当選訴訟におるけ判決の効果は当然当選者に及ぶべく、当選者が補助参加をなした場合には、通常の補助参加と異なり、講学上いわゆる共同訴訟的補助参加の性質を有するものと解するのが相当であるから、右補助参加人は必ずしも被参加人の主張の範囲内で被参加人を補助する地位にとどまるものではなく、被参加人の訴訟行為と牴触する訴訟行為をも有効になし得るものというべきである。蓋し、かゝる補助参加人は、被参加人と相手方との判決によつて、その法律上の地位に直接影響を受けるべきものでありながら、法律上は当事者適格なく、自己の利益を防衛するにつき補助参加による外はないとせられるのであるから、この種の補助参加人に対しては通常の補助参加の場合以上に強い訴訟追行権能を与えないと、その保護が十分でないからである。従つて、原告らの右主張は採用できない。

(二)  補助参加人は本件選挙において被告が無効投票と決定した左記各投票は、補助参加人に対する有効投票であると主張するので、この点から判断する。

(1)  中川清二郎(1)、川口ヒロシ(73、74)、川口春太郎(75)、川口浩(80)、川口八郎(81)、川口松太郎(103ないし105)、川口竜太郎(124)と記載された投票は、1については、名において補助参加人と一致しているが、その氏において何らの関連性がなく、記載形態からして誤記したものとも認められなく、その余の各投票についてはいずれも氏において補助参加人と一致しているが、その名において何らの関連性がなく、記載の態様からみて誤記したものとは認められないから、以上いずれも候補者でない者の氏名を記載したものとして、無効である。

(2) (2)と記載された投票は、その筆蹟及び形態からみて、「」部分は、補助参加人の氏の一部又は敬称等を記載しようとして、書き損じたものとは認められないから、他事記載とみるの外なく、無効と解すべきである。

(3) (3)と記載された投票は、川口とは判読できず、文字の体裁をなしていないから、無効とすべきである。

(4)  山口(61ないし71、96)と記載された投票は、明瞭に「山口」と記載されておるところ、本件選挙の葛飾選挙区における候補者の中には「山田秀厚」なる者があるので、右は候補者の何人に投票したか確認し難いものとして無効である。

(5) (72)と記載された投票は、これを仔細に点検すると、本件選挙と同時に行われた東京都知事選挙の候補者(「有田八郎」の氏を誤つて都議会議員選挙用紙に比較的薄い字で記載したところ、用紙の誤りに気付き、その上に誤記訂正の意味をも兼ね、補助参加人に投票する意思をもつて「川口」と濃く記載したものであることが認められるから、前記部分を他事記載と目すべきものではなく、補助参加人に対する有効投票と認めるべきである。

(6) (76)と記載された投票は、その第一文字は「川」判読できないこともないが、下部の部分はその筆蹟及び記載形態からみて、「口」とは判読できず、単なる記号もしくは符号又は雑事を記載したものと認められ、無効となすべきである。

(7)  山田清治郎(77)と記載された投票は、本件選挙の葛飾選挙区における候補者「山田秀厚」の氏と補助参加人「川口清治郎」の名を混記したものと認められ、いずれの候補者に投票したか判別し難いから無効である。

(8) (78)、川田(79、92)と記載された投票は、その筆蹟からみて「川口」を誤記したものとは認められないし、又本件選挙の葛飾選挙区における候補者中には「川口清治郎」の外に「山田秀厚」及び「村田宇之吉」が存在するから、これを混記したものか、或いは候補者以外の者の氏を記載したものとして無効である。

(9)  川口(87)と記載された投票は、氏において「川口」と記載し、名の第一字は平仮名の「じ」、第二字は片仮名の「ラ」の変型、第三字は片仮名の「オ」を記載したもの即ち「」と判読できるところ、「」は「治郎」に通じてその筆蹟からみて、文字に書き馴れない者が、これを誤記したもので「清治郎」の不完全記載で、他事記載とみるべきではないから、補助参加人に対する有効投票となすべきである。

(10) (88)と記載された投票は、第二字は「口」と判読できないのみならず、これを誤記したものとも認められないし、又その下部には句点読点がことさら重ねて記載せられておることからして不用意に付したものとは認め難いから他事記載というの外なく、無効と解すべきである。

(11)  川口秀厚(93)と記載された投票は、補助参加人「川口清治郎」の氏と本件選挙の葛飾選挙区における候補者「山田秀厚」の名を混記したものと認められ、右いずれの候補者に投票したか判別できないから無効である。

(12)  川島(95、98)、川島政治郎(99)と記載された投票は95、98については、その第一文字は「川口」の「川」と一致しているが、第二文字は川口の「口」とは字形、音感ともに類似又は関連性なく、「川口」を誤記したものとも認められないから、候補者以外の者の氏を記載したものとして無効であり、99については、氏の点は右説示のとおりであり、又その名の「政治郎」は通常「マサジロウ」と呼称せられ、又その第一字において字形を異にして、「清治郎」とは類似性なく誤記したものとは誤められないから、候補者でない者の氏名を記載したものとして無効である。

(13)  川口治三郎(97)と記載された投票は、補助参加人「川口清治郎」の氏と本件選挙の葛飾選挙区における候補者「石井治三郎」の名を混記したものと認められ、いずれの候補者に投票したか判別できないから無効である。

(14)  川口君へ(102)と記載された投票は、右「へ」は敬称と認め難いから、他事記載に当り、右投票は無効とすべきである。

(15)  川上(120ないし123)と記載された投票は、その筆蹟からみて、かつ「口」と「上」とは字形、音感ともに類似又は関連性なく「川口」を誤記したものとは認められないから、候補者以外の者の氏を記載したものとして無効である。

(三)  補助参加人は本件選挙において被告が長瀬健太郎に対する有効投票と決定した中、左記各投票は無効であると主張するので判断する。

(1)  ナセ(19)、(20)、(22)、(23)、ながた(24)(25)、(26)、(27)、(28)、(29)、(30)、(31)、(35)、ナガタ(49)、(50)、(51)、(54)、ながた(55)、(56)、(60)、(112)、(117)、(118)と記載された投票は、その筆蹟及び運筆等からみて文字に書き馴れない選挙人が片仮名又は平仮名をもつて「長瀬健太郎」に投票しようとして誤記したものと認めるのを相当とする。即ち、19は「ナガセ」の「ガ」を不用意に書き落し、20は「ナガセ」の「セ」の「」を「」の如く左に曲げて書き間違い22は第一字につき「ナガセ」の「ナ」の横棒を不用意に書き落し、23は「ナガセ」の「ガ」の「ノ」を書き落した上、第三字目は「セ」の「」を真直ぐに書き間違い、24、49、55はその字形、音感等の類似から「ながせ」、「ナガセ」を「ながた」「アガタ」と覚え違いして誤記し、25は第一字につき「ナガセ」の「ナ」を左書きに間違えて書いた上、第三字につき「セ」の縦棒を間違えて途中から書き始め、26は第二字につき「ノ」を途中から書き始めて不用意に濁点を書き落し、第三字は運筆が拙劣であるが「セ」と判読でき、27は第三字につき「セ」を書き間違い、28、112はその字形音感等から「ナガセ」、「ながせ」、を誤つて記載し、29は誤つて片仮名と平仮名とを混同して書き不用意に「ガ」又は「が」を書き落し、30は第三字につき「ナガセ」の「セ」の書き間違い、31は第二字につき「ナガセ」の「ガ」の「ノ」を書き落した上第三字につき「セ」の「」を左に曲げて間違えて書き、35は辛うじて「ナガ」と書いたが次の「セ」を記載しようとして「」を「」と書き「」を「」と左に曲げて誤記し、50は第三字につき「セ」と書き間違え、51、54はともに第二字につき「セ」を判読でき、不用意に「ながせ」の「が」を書き落し、56は第三字につき「ナガセ」の「セ」の運筆が乱れ、60は第一字につき「ナガセ」の「ナ」を誤つて左書きし、その「ガ」を不用意に書き落し、117、118はいずれも第一字につき「ナガセ」の「ナ」の誤記と認められるから、以上いずれも長瀬健太郎に対する有効投票である。なお、右24、49、55の各投票は、本件選挙における葛飾選挙区の候補者中に「原田」「村田」「山田」なる氏の者が存在しても、その音感及び字形において「ながせ」、「ナガセ」に最も近似しているから、前記認定を妨げるものではない。

(2) ながい<手書き文字>(21)、ナガイ(110、114)と記載された投票は、前記三の(一)の(9)に説示したと同一の理由により長瀬健太郎に対する有効投票と認めるべきである。

(3) 永瀬(32)と記載された投票は、その筆蹟から判断し、文字を書くことに不馴れな選挙人「長瀬健太郎」に投票しようとして、その氏の音感の類似から「長」を「永」と誤記し、「瀬」を記載しようとし、はじめ「オ」と書いたが誤りに気付き、その上に「シ」を正記したが、その余の部分が判らないためこれを誤記したものと認められ、「瀬」と判読できるから、長瀬健太郎に対する有効投票とすべきである。

(4) 長瀬竜太郎(33)、ながせりゆたろう<手書き文字>(58)と記載された投票は、33は選挙人が「長瀬健太郎」に投票しようとして、その氏を「長瀬」と明記し続いてその名を書こうとしたところ、右選挙と同時に執行された東京都知事選挙候補「東竜太郎」の名とは一字異なるものであるので、これを覚え違いして「竜太郎」と誤記した、58も同様覚え違いして「りゆうたろう」と誤記したものとみられ右両者の氏名を混記したものとは認め難いから、いずれも長瀬健太郎に対する有効投票である。

(5)  (34)と記載された投票は、その筆蹟より判断し、文字を書くことに不馴れな選挙人が「長瀬健太郎」に投票しようとして、その氏名を平仮名で書くに当り、その名の「け」を運筆が稚拙のため「ち」と書き間違い、かつ「う」を不用意に書き落したものと認められるから、同人に対する有効投票である。

(6)  (48)と記載された投票は、これをよく点検するに、「長」の字の上半分である「」が運筆の具合により薄く書かれた跡が認められ、「長瀬健太郎」と判読できるから、同人の有効投票とすべきである。

(7) 長(52)と記載された投票は、その筆蹟及び本件選挙の葛飾選挙区における候補者中その氏名に「長」の字を有するものは「長瀬健太郎」の外には存在しないことからみて、文字の記載に不馴れな選挙人が、同人の投票する意思をもつて記載したものと認められるから有効投票である。

(8)  (53)と記載された投票は、その運筆より判断し、文字を書くことに不馴れな選挙人が「長瀬健太郎」に投票しようとして、その氏を「ナカセ」と書き、続いてその名の「ケン」を書こうとしたが書き得ないで誤記したものと認められるから、同人に対する有効投票となすべきである。

(9)  (57)と記載された投票は、その筆蹟からみて、文字を書くことに不馴れな選挙人が「長瀬健太郎」に投票しようとして、その氏を音感の類似から覚え違いして誤記し、続いてその名の「けん」を記載しようとしたが運筆が下手のため完全に書き得なかつたのであるが「けん太郎」と判読できるから有効投票である。

(10)  (59)と記載された投票は、その記載の態様及び本件選挙の葛飾選挙区における候補者中、右氏に近似する者は「長瀬健太郎」以外には存在しないことからして、選挙人が同人に投票しようとして「瀬」の「」を書き落したものと認められるから、同人に対する有効投票である。

(11) 永井健太郎(109)と記載された投票は、その氏において前記三の(一)の(9)に説示したと同一の理由によりその名において「長瀬健太郎」と一致しており、同人に対する有効投票である。

(12)  (111)と記載された投票は、その運筆よりみて文字を書くことに不馴れな選挙人が、「長瀬健太郎」に投票しようとして、その氏を「長瀬」と書き、続いてその名を記載しようとしたが正記し得なかつたものとみられ、その記載形態からして有意の他事記載とは認め難いから、同人に対する有効投票である。

(13) なるせ(113)と記載された投票は、前記三の(一)の(7)に説示したと同一の理由により「長瀬健太郎」に対する有効投票である。

(14)  (115)と記載された投票は、文字を書くことに不馴れな選挙人が「長瀬健太郎」に投票しようとして、その氏を音感の類似から「ヤナセ」と覚え違いして誤記し、その名をケン「タロ」と正確に書き得ず又「ウ」の字を不用意に書き落したものであるが「ケンタロウ」と判読できるから、同人に対する有効投票とすべきである。

(15)  (116)と記載された投票は、選挙人が「長瀬健太郎」に投票しようとして、その氏を「長セ」と書きその名を自己流に崩して記載したものと認められ、その記載の態度からして他事を記載したものとも、悪戯による投票ともみられないから、長瀬健太郎に対する有効投票と認めるべきである。

(16)  (119)と記載された投票は、文字を書くことに不馴れな選挙人が「長瀬健太郎」に投票しようとして、氏において「ながせ」の「な」の運筆を誤り、「せ」を書き落し、名において「けんたろう」の「ん」を書き落したものと認められ、全体として「ながせけんたろう」と十分に判読できるから、同人に対する有効投票である。

五、以上説示(丙第一ないし第一三号証をもつて以上認定を左右するに足りない。)したところにより候補者長瀬健太郎及び補助参加人の各投票を計算すると、長瀬健太郎の得票は被告が前記決定で認めた票数に九票(前記15、84ないし86、89、90、94、100、108の九票)を加算した一七、九三五票となり、補助参加人の得票は増減なく(加算するもの前記72、87の二票、減ずるもの5、9の二票)一七、九三二票であるから、長瀬健太郎をもつて最下位当選者、補助参加人をもつて最高位落選者となすべく、従つて原告らの異議申立を棄却した被告の前記決定は違法であつて取消を免れず、又本件選挙における当選人川口清治郎(補助参加人)の当選は無効であるというべく、原告らの本訴請求は理由があるから認容すべきである。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九四条後段を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 二宮節二郎 奥野利一 大沢博)

(目録省略)

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