東京高等裁判所 昭和34年(ネ)1644号 判決
右認定事実によれば、控訴人の兄政蔵らが控訴人本人の確定した意思をきくことなく、被控訴人に結納を贈つたことには、いさゝか軽卒のきらいがあり、控訴人がその後の被控訴人との交際に際して、被控訴人が控訴人との婚約成立を確信していることを知りながら、これを訂正しないばかりか、かえつてその確信を助長するような言動にのみ出でたことは、甚しく無責任のそしりを免れないけれども、本件において控訴人の真意は婚約前の交際の意図を出でないものであり、少なくとも本件においては前記結納が贈られたの一事をもつて、本件当事者間に婚姻の予約が成立したと認めるには、未だに十分なものがないとするのを相当とすべく、その他右事実を明認するに足る証拠がない。
したがつて、控訴人の婚姻予約不履行を原因とする本訴請求はその理由がないものといわなくてはならない。
しかし、上に認定したような控訴人の言動は、自己において真に婚姻の意図もないのに、そのことを確信している被控訴人の誤解を解こうとしないのみか、かえつてこれを助長するような言語態度に出で、被控訴人につよくすゝめて、勤務を始めて半年にしかならない勤務先を辞さしめるなどの財産上の損失を被らせたうえ、突然婚姻の意思のないことを明らかにして控訴人との婚姻を信じて疑わなかつた被控訴人に対し精神上の苦痛を与えたものであるということができ、故意、少くとも過失によつて被控訴人の財産権及び人格権を侵害したものとして、これに基因する有形無形の損害を賠償すべき責任あるものといわなくてはならない。
(内田 鈴木 入山)