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東京高等裁判所 昭和34年(ネ)177号 判決 1960年12月06日

控訴人 京浜産業商事株式会社

被控訴人 国 外二名

訴訟代理人 越智伝 外二名

主文

原判決を取り消す。

被控訴人亀山精二、同辺見哲夫、同国は各自控訴人に対し金百八十万円及びこれに対する昭和二十八年六月九日から支払ずみまで年五分の割合の金員を支払え。

訴訟費用は、第一、二審とも被告控訴人らの連帯負担とする。

事実

控訴代理人は、主文第一、二項同旨の判決取び、仮執行の宣言を、並びに被控訴人辺見哲夫に対する第一次請求が理由がないときは、予備的請求として、「被控訴人辺見哲夫は控訴人に対し金百八十万円を支払え。との判決を求め、被控訴人らは控訴棄却の判決を、被控訴人辺見哲夫は、予備的請求につき請求棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述は、控訴控訴において、被控訴人辺見に対する予備的請求の原因として、「被控訴人辺見は昭和二八年八月二十九日控訴人に対し訴外東邦興業株式会社の控訴人に対する前渡金二百三十万円の返還債務につき保証をした。よつて控訴人は右前渡金中既に返還を受けた部分を差引いた残金百八十万円の支払を求める。」と述べた外、原判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。

証拠<省略>

理由

被控訴人亀山、同辺見がともに大蔵事務官として関東財務局管財部に勤務し、被控訴人亀山は同部第四課不動産第三係長、被控訴人辺見は同部第二課不動産第二係員であつたことは、当事者間に争なく、成立に争のない乙第一、第二号証の各一、二、原審証人大賀和夫の証言、当審における被控訴人辺見の供述(第二回)を綜合すれば、川崎市所在昭和電工株式会社川崎工場内にあつた国有財産である屑鉄(以下本件屑鉄と略称する。)の払下事務は、被控訴人辺見の属する関東財局管財部管財第二課の所管であつたこと、但し、関東財務局事務分掌規程によれば、右管財第二課は不動産第一係ないし同第四係に分かれ、本件屑鉄払下事務は管財第二課第三係が分掌し、被控訴人辺見の属した不動産第二係は茨城県、栃木県、新潟県及び東京都の一部所在の物件についての右第三係と同様の事務を分掌していたことを認めることができる。

控訴人は、被控訴人亀山、同辺見、原審共同被告小坂井早司の共同不法行為によつて金二百三十万円の損害を受けたと主張するので、事実関係を調査するに、

(一)、成立に争のない甲第十二号証、同第十七号、第十八号証、成立に争のない乙第十六号証、同第二十三号証、同第二十五号証、同第五十七ないし第六十号証、原審証人荻野伊真雄、当審

証人小坂井早司の各証言、及び原審における被告(被控訴人)辺見の供述(第一回)を綜合すれば、(但し以上各証拠中以下認定に反する部分は採用しない。)被控訴人辺見は昭和二十八年二月頃かねて知合の東条税弥から本件屑鉄の払下の見込についての調査を依頼されるや調査の上、これが払下が相当難しいことを知つたに拘らず、同年四月頃鉄鋼ブローカー荻野伊真雄から本件屑鉄の払下につき尽力方を依頼せられるに及び、これを承諾し、右荻野の紹介により、原審共同被告小坂井が同年四月二十八日附で株式会社神戸製鋼所名義で提出した本件屑鉄払下申請書を受け取り、控訴会社が服部鋼材株式会社と共同で東邦興業株式会社との間に後記認定の屑鉄売買契約を締結した昭和二十八年六月六日以前に、小坂井が同道した服部鋼材株式会社社員服部邦泰に対して本件屑鉄が小坂井側に払下になつている旨を言明したことを認めることができ、

(二)、成立に争のない甲第十、第十一号証、控訴人と被控訴人亀山との間においては成立に争がなく、その余の被控訴人らとの間においては当審における控訴人亀山の供述(第一回)によつて真正に成立したと認める甲第三号証、当審証人浦野豊治の証言、原審並びに当審(いずれも第一、二回)の控訴会社代表者黒田軍児の供述、原審並びに当審(いずれも第一、二回)の被控訴人亀山の供述を綜合すれば、(但し以上各証拠中以下認定に反する部分を採用しない。)被控訴人亀山は、昭和二十八年五月頃かねて知合の小坂井早司から本件屑鉄の払下について相談を受けたこと、その際小坂井は被控訴人亀山に対し、被控訴人辺見が本件屑鉄の払下を担当しており、払下が確実に行わるべきことを言明しているが、小坂井自身は払下を受けるに必要な金員がなくて困つていることを告げ、さらに被控訴人亀山に対し金貸から払下を受けるために要する金員を借りるために金二百万円の預り証を作成されたき旨の依頼を受けるや、被控訴人亀山は金二百万円を現実に預つたことがなかつたにも拘らず、かねて小坂井から酒食の饗応を受け、金銭の贈与を受けるなどの関係があつたため、その依頼に応じ昭和二十八年五月三十日関東財務局の用紙に、関東財務局管財第四課大蔵事務官亀山精二という作成名義で、東邦興業株式会社取締役社長小坂井早司にあて「領り証」と題し、「一、金二百万円也、右預りました。」と記載した書面(甲第三号証)を作成し、これを小坂井に交付したこと、被控訴人亀山は本件屑鉄の払下が自己の所管事務に属せず、又これが払下見込の有無につき何の調査もしなかつたにも拘らず、本件屑鉄の払下が必ず行われることを言明するよう依頼せられて、これをも承諾し、昭和二十八年六月三、四日頃関東財務局庁舎内においては小坂井が同道した控訴会社代表者黒田軍児らに対し本件屑鉄は小坂井が既に東邦興業株式会社名義で払下を受けたものであること、この払下のため小坂井が二百万円の保証金を差し入れたことは間違ない旨言明し、さらにその翌日控訴会社代表者黒田軍児から東邦興業株式会社と本件屑鉄の売買契約を締結するにあたつて立会することを求められてこれも承諾したことを認めることができ、

(三)、前掲甲第三号証、当審における控訴会社代表者黒田軍児の供述(第一回)によつて真正に成立したと認める甲第四ないし第六号証、原審証人服部邦泰、当審証人浦野豊治、小坂井早司の各証言、成立に争のない乙第五十七ないし第六十号証、原審並びに当審(いずれも第一、二回)の控訴会社代表者黒田軍児の供述を綜合すれば、(但し以上の各証拠中、以下認定に反する部分は採用しない。)、控訴会社は株式会社神戸製鋼所の委託を受けて屑鉄の集荷、納入を業としておつたが、昭和二十八年六月二、三日頃服部鋼材株式会社から、東邦興業株式会社が関東財務局から二千屯の屑鉄の払下を受けながら資金不足のため代金を支払うことができず、現物の引渡を受けられないでいるから、右屑鉄を東邦興業株式会社から転買してはどうかとすすめられたこと、控訴会社代表者黒田軍児は同日小坂井の案内で本件屑鉄を見分し、小坂井から本件屑鉄は東邦興業株式会社において払下を受けたものであるとの説明を聞き、さらに小坂井の示唆により関東財務局において被控訴人亀山と面会したところ、被控訴人亀山は、本件屑鉄は小坂井が既に東邦興業株式会社名義で払下を受けたものであること、この払下のため小坂井が二百万円の保証金を差し入れたことは間違ないと言明し、その翌日は控訴会社と東邦興業株式会社との本件屑鉄売買契約にあたつてこれが立会をなすことをも承諾し、一方服部邦泰から被控訴人辺見にあつて本件屑鉄の払下の有無を確かめたところ間違ない旨の言明を得たとの報告を聞き、控訴会社代表者黒田軍児は、関東財務局の事務官である被控訴人亀山、同辺見の言明に信頼し、東邦興業株式会社が真実本件屑鉄の払下を受けたものと誤信し、昭和二十八年六月六鋼日服材部株式会社と共同して東邦興業株式会社から本件屑鉄を千九百屯と見積り、一屯一万八千五百円で買い受けることを約し、これが代金の内渡金として同日金百十万円、同年六月九日金百二十万円を東邦興業株式会社代表者小坂井に支払つたこと、しかるに東邦興業株式会社が本件屑鉄の払下を受けた事実は全然なく、また払下を受け得る見込もなかつたので、控訴会社はついに本件屑鉄の引渡を受けることができなかつたことを認めることができる。(控訴会社らと東邦興業株式会社間の本件屑鉄売買契約は、被控訴人亀山、同国の認めるところである。)

以上(一)ないし(三)の認定事実に基いて考えるに、控訴会社が東邦興業株式会社の代表者小坂井との間に本件屑鉄の売買契約を結び小坂井に対して代金の内渡金を支払うに至つたのは、小坂井自身の欺瞞行為に因るものであることはもちろんであるが、被控訴人亀山は直接に、被控訴人辺見は服部邦泰を介して、控訴会社に対し前段認定の虚偽の言明を与えたことも相まつて控訴会社代表者黒田軍児をして本件屑鉄が既に払い下げられたものと誤信するに至つたことに因るものと認めるのが相当である。被控訴人亀山、同辺見は本件屑鉄払下所管庁に在勤した公務員であつて、同人らの言明は控訴会社代表者黒田軍児が前段認定の如く欺瞞せられるについて決定的な要因をなしたものと認められる。

しかして被控訴人竜山、同辺見が前段認定の如き虚偽の言明をなすにあたり、本件屑鉄が小坂井早司から何人かに売り渡されることを知つていたことは、当審証人小坂井早司の証言によつて明らかであつて、この事実と前段認定の事実関係とを合わせ考えれば、被控訴人亀山は、小坂井本件屑鉄によつて他から金員を詐取せんとすることを知つて、その欺瞞手段に協力したことは明らかであり、被控訴人辺見もまた右のような事情を知りながら小坂井からの本件屑鉄払下申請書を受取り、かつ前段認定の虚偽の言明をあえてしたと認められる。そうだとすれば、被控訴人亀山、同辺見はともに事情を知つて小坂井の詐欺行為を幇助したものというべく、被控訴人亀山、同辺見は、小坂井と共同して控訴会社に対し金二百三十万円の損害を負わしたものといわばければならない。

しかるに、被控訴人亀山、同辺見は、控訴会社にも本件屑鉄の払下に関する調査については重大な過失があつた、すなわち、国有財産の随意契約による払下については必ず売買契約に関する書面が作成されることは周知の事実であるから控訴会社としては払下に関する文書を閲覧して本件屑鉄が払下済であるかどうかを調査すべきに拘らず、控訴会社がかかる調査をなさないで本件屑鉄が払下ずみであると誤信した点において控訴会社に過失があり、右過失は損害賠償の額を定めるについて斟酌さるべきものであると主張している。しかしながら、被控訴人亀山は本件屑鉄払下事務を担当していた関東財務部管財第二課と課は異にするけれども、その所属部は同一であり、係長の職にあつたものであり、被控訴人辺見は本件屑鉄払下事務を担当する課に属する職員である。前記亀山の作成した金員預り証の存在と相まつてかかる地位にある公務員の言明を信じたことは、当時の国情に照らし、民間人たる控訴会社代表者黒田軍児としてはまことに無理からぬことであつたものというべく、同人の代表する控訴会社に過失があつたものとはいい難く、被控訴人らの過失相殺の主張は排斥を免れない。よつて同被控訴人らは、小坂井早司と連帯して控訴会社の受けた損害のすべてを賠償する義務があるものというべきである。

次に被控訴人国に対する控訴会社の請求について判断する。控訴会社は、被控訴人亀山、同辺見の前段認定の不法行為は、被控訴人国の事業の執行につきなされたものであると主張し、被控訴人亀山、同辺見の前段認定の行為により控訴会社の受けた損害の賠償を求めているのである。被控訴人亀山、同辺見が被控訴人国の使用者であることは、冒頭認定したところであるけれども、本件屑鉄払下は、被控訴人亀山、同辺見のそれぞれ直接担当していた職務の範囲にふくまれていなかつたことは、前掲第一、第二号証の各一、二、原審証人大賀和夫の証言によつて明らかである。

しかしながら、被控訴人辺見は、本件屑鉄払下事務を担当していた管財第二課に属していたことは前段認定のとおりであるから、同被控訴人の前段認定の行為は、同被控訴人の職務の執行たる外観を具えていたものと認定するのが相当であるから、少くとも同被控訴人の前段認定の行為は被控訴人国の事業の執行につきなされたものというべく、被控訴人国もまた被控訴人辺見の前段認定の行為によつて控訴会社の受けた損害を賠償すべき義務あるものというべきである。なお被控訴人国も、被控訴人辺見らと同じく過失相殺の主張をしているが、その理由がないことは、前段説示のとおりである。

それ故、被控訴人亀山、同辺見、同国に対し各自控訴会社のうけた前段認定の二百三十万円の損害から、控訴会社が返還を受けたことを自認する五十万円を差し引いた残額百八十万円並びにこれに対する損害全部が発生した日である昭和二十八年六月九日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める控訴会社の本訴請求は、これを正当として認容すべきものである。

よつて原判決を取り消し、控訴人の請求を認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九三条、第九六条を適用し、仮執行の宣言を附することは相当でないと考えるのでこれを附さないこととし、主文のとおり判決する。

(裁判官 谷本仙一郎 猪俣幸一 安岡満彦)

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