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東京高等裁判所 昭和34年(ネ)1953号 判決 1960年1月28日

控訴人 植田敦美 外一名

被控訴人 国

訴訟代理人 横山茂晴 外一名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人等の負担とする。

控訴人等代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人は控訴人植田に対し金二十万円、控訴人中西に対し金三十万円及びそれぞれこれに対する昭和二十八年七月二十五日から各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は主文第一項同旨の判決を求めた。

当事者双方の陳述した事実上の主張、証拠の提出援用及び認否は、すべて原判決の摘示と同一であるから、これを引用する。

理由

当裁判所は、本件に顕われた当事者双方の主張並びに証拠を仔細に検討した結果、控訴人等の本訴請求は理由がないものと認めるものであつて、その理由は、左記の外は、原判決が理由中で説明しているところと同一であるから、これを引用する。

(一)、理由二のうち裁判(原判決十二枚目-記録一一五丁-裏の末行目)及び裁判(原判決十三枚目裏の三行目)の各次の括孤の中の「法の解釈適用」の前に「事実の認定及び」の七字を加える。

(二)、理由二のうち、「法の解釈適用」(原判決十三枚目表二行目)を削つて、その代りに「裁判」を入れる。

(三)、理由三の2のうち、「経験則」(原判決十七枚目-記録一二〇丁-裏八行目から九行目)の後に「或は法解釈の理論」の八字を加える。

(四)、理由三の3の「が、これは」(原判決十八枚目-記録一二一丁-裏七行目)から「採ることができない」(同九行目)までを削つて、その代りに、次の文書を入れる。即ち「違憲審査権と基本的人権の擁護が重大なことで、これを尊重しなければならないのはもちろんであるが、それだからと言つて、憲法その他の法の理想を無視又は軽視していいということにならないばかりではなく、また実定法規の解釈を曲げることはとうてい許されないところである。しかも、右各裁判官が本件政令の解釈適用について過失のなかつたことについては、上段2で詳説したとこであるから、この点に関する控訴人の主張は採用できない。

(五)、理由三の3の「多言を要しないであろう」(原判決十九枚目表六行目)の後に左記の文言をつけ加える。

「最高裁判所の大法廷の判例で特定の法規の解釈についての意思が表明された場合に、法律上判例の覊束力はその特定の事件についてのみに限定されているから、他の事件について、その判例に全く相反するが、解釈上は許される反対の解釈をとり、そのために国民の権利が侵害されたような場合には、裁判官に重過失の点はもちろん問題にはならないが、その判例が誤つていて取り消される可能性のある場合その他、特別の事情が存在していない場合には、裁判官に一応過失がありと認めるを相当とするかどうかは問題があると思う。しかしながら、本件の場合には、上記政令第三二五号についての最高裁判所の大法廷の判例がたのは昭和二十八年七月二十二日であつて(このことは成立に争のない甲第一号証によつて認められる)、控訴人両名が勾留されたのはその以前である昭和二十六年二月から同二十八年七月二十三日までの間であることは当事者間に争がないのであるから、右のような意味での過失も問題にならない。右のように、最高裁判所の大法廷の判決言渡と勾留執行停止決定のなされるまでの間に一日存しているが、この点については控訴人は明確な主張もしていないし、且つ、右時間は極めて僅かの時間であるし、その時間は事務手続上必要な時間と認めるのを相当とするから、この点について裁判官の過失を認めることができない。」

従つて、原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから民事訴訟法第三八四条第一項を適用してこれを棄却することとし、控訴審での訴訟費用の負担について同法第九五条、第八九条、第九三条第一項本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 村松俊夫 伊藤顕信 土肥原光圀)

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