東京高等裁判所 昭和34年(ネ)2021号 判決
おもうに債権者が予め債務者から白紙委任状の交付を受け、これに基き自ら債務者のため代理人を選任し、これとの間に契約を締結して公正証書を作成した場合であつても、その内容が予め債務者との間に具体的に協定されたものであり、または予め債務者の了解した事項の範囲を出でない趣旨のものであるときは、これにより本人たる債務者が不測の損害を蒙る虞はないから、法律上これを無効と解すべきいわれはない。しかし、前記認定にかかる本件事実関係の下においては、右と趣を異にし、債務者たる被控訴人らは日殖との間に将来公正証書に記載すべき債務の金額および弁済方法の具体的内容を確定しない侭白紙委任状を交付し、これにより公正証書作成のための代理人の選任を相手方たる日殖に一任したものであることが明らかであるから、かかる趣旨の下に相手方が代理人を選任し得ることを諾約した契約は、双方代理を禁止した民法第一〇八条本文の精神に違反するものというべく、その結果、右白紙委任状に基き日殖が被控訴人らのため代理人を選任し、これとの間に締結した本件公正契約は、被控訴人らに対しその効力を生じないものと解するのが相当である。(被控訴人らにおいて、本件公正契約が民法第一〇八条の精神に違反する事実を主張していることは、本件口頭弁論の全趣旨に照らし明白である。記録第八十三丁裏参照)。しかのみならず、前示の如く日殖が被控訴人らから予め白紙委任状を徴し、これにより実際の債務額より遥に多い一二〇万八、〇〇〇円の債務につき公正証書を作成させたのは、他に特段の事情の認められない本件においては、当時被控訴人らに対し経済的優位にあつた日殖が、その立場を利用し被控訴人らのため不当に苛酷な契約を締結させたものと解するのが相当であるから、この点からするも、右契約は民法第九〇条に照らし無効たるを免れない筋合である。
(牛山 田中 土井)