東京高等裁判所 昭和34年(ネ)2191号・昭38年(ネ)2810号 判決
訴外亡吉野清は、控訴法人の理事長としてその設立当初から控訴法人を代表しその経営する病院の維持発展に尽力してきたものであるが、控訴法人においては病棟の増設、医療器具の購入等のため多大の資金を必要とし金融機関からの借入金だけではこれをまかなうことができなかつたので、医薬品その他の取引先である訴外岡良弟その他本件各貸主を含む十数名を呼びかけ病院の維持発展のために資金の融通方を依頼したところ、右岡その他の者等は、右清の手腕に期待してこれに応ずることとし、各自の手持の金や、友人知人からの借入金をもつて弁済期数箇月後、利息月五分ないし七分の約で昭和二十六年頃から随時金員を用立て、利息の支払を受けては弁済期の延期を重ねてきたこと、ところで、控訴法人においては当時すでに銀行その他の金融機関に対して多額の債務がありこれにつき手形の不渡を出したりしたため、別に右吉野清名義をもつて控訴法人の当座勘定銀行口座等を設けており、岡その他の者等からの右金員借用に関してもその支払確保のため右別口口座に係る吉野清個人名義で約束手形を各貸主に振り出すのを例としていたこと、しかしながらこれら各金員はいずれも控訴法人の事業のために使用する趣旨をもつてかつ控訴法人を借主として貸し付けられたものであつて、このことは各貸主もこれを了承しており、現にこれら各金員は控訴法人の事業のために費消されたものであり、したがつて、右各消費貸借は各貸主と控訴法人との間に成立したこと、そして、右各消費貸借中本件各貸主たる被控訴人山崎、同加藤、同盛田、同海老名、訴外亡田村、原審における脱退原告岡との間には請求原因(一)ないし(六)掲記のとおりの時期回数で、そのとおりの元本額がそのとおりの利息の約定で、当初の弁済期及びこれが数回延期を重ねた最後の弁済期もいずれも右掲記のとおりの約で各消費貸借契約が成立したものである事実を認めることができる。
そこで控訴人の各抗弁について判断する。
(一) 控訴人は、本件消費貸借は控訴法人の目的の範囲外のものとして無効である旨主張するけれども、法人を代表する理事のなした行為が定款又は寄附行為所定の法人の目的の範囲内の行為であるか否かについては、当該行為の性質から判断すべきところ、控訴法人の寄附行為たる前示乙第七号証によれば、控訴法人は、国民の保健向上に必要な医療をなし、とくに結核に対する療法の研究とその療養生活の指導をなすことを目的とし、かつその目的達成のために医療施設の設置経営その他これに附帯する一切の事業を行うものであることが明らかであるから、前記認定のように吉野理事長が控訴法人経営の病院の維持発展のため本件各消費貸借契約を締結したことは、控訴法人の目的の範囲内に属するものといわなければならない。また右乙第七号証によれば、控訴法人の寄附行為においても個々の債務負担行為につき一々理事会の決議を経ることを要するものとは認められないので、本件消費貸借を以て理事会の決議を欠くため無効であるとなすことはできない。よつて控訴人の右主張は採用できない。
(小沢 池田 宇野)