大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和34年(ネ)2420号 判決

そして、以上の認定事実によれば、被控訴人と控訴人藤助との婚姻をこれ以上継続することは、被控訴人に対しては、これを期待することを得ない状態に達しているものというべきである。そして、その原因は、夫の父である控訴人良助の被控訴人に対する継続的な冷淡な態度、虐待及び侮辱と、右の事実を熟知しながら拱手傍観何らの宥和策を講じないばかりか、被控訴人の申出でた別居についても何等の熱意をも示さず、却てこれに反対し、遂には離婚も止むなき旨言明するなどの態度に出た控訴人藤助の夫としての愛情ないしは婚姻継続に関する熱意の欠如に因るものと認めるべきである。そうだとすれば、本件婚姻は、これを継続し難い重大な事由あるに至つているものであり、そして、その責任は、控訴人両名に存するものというべきである。

控訴人等は、新民法は、家の観念を認めず、夫婦とその親達との同居を必要としていないものであるから、本件において、控訴人良助と被控訴人との間が破綻に帰したとしても、控訴人藤助と被控訴人との夫婦関係が破綻に帰したとはいわれない旨主張するが、夫婦の一方と、その他方の親達との不和が原因となつて、その夫婦の婚姻が破綻に至ることは、人間生活の現実の事実問題であつて、新民法の所論制度上の立前とは別個のことに属する。そして、前段認定のような事実関係である以上、本件婚姻が破綻に帰しているものと認めるべきであつて、控訴人の右主張は理由がない。

又、控訴人等は、被控訴人と控訴人藤助との夫婦を控訴人良助等と別居させる旨提案し、破綻の防止に努力した旨主張する。そして、昭和三二年四月、被控訴人が離婚を決意して実家に赴く以前の事実としては、控訴人側で別居を提案したことを認めるべき証拠はないが、右被控訴人が実家に赴いた以後の事実としては、原審における控訴人両名各本人尋問の結果によれば、控訴人方では、被控訴人夫婦を別居させてもよいから被控訴人に戻つて貰いたい旨申入れたが、結局被控訴人の承引するところとならなかつたことを認めることができるし、本訴提起に先立つて東京家庭裁判所八王子支部に申立てられた離婚調停事件において、控訴人等が、別居をしてもよいから被控訴人に戻つて貰いたい旨の申出をしたことは、被控訴代理人のその旨の陳述によつてこれを認めることができる。しかし、控訴人等が、右のような申出をしたのは、本件婚姻が破綻に帰し、被控訴人が離婚を決意して実家に赴き、更に高橋タカ等と共に控訴人方に赴いて離婚の申入をした後のことであつて、前段認定の、それまでの経緯に照せば、被控訴人が控訴人側の右申出を受入れなかつたことを以て、不当ということはできない。

なお、控訴人も主張する本件婚姻が相当期間に亘つていること、夫婦の間に二人の子があること、その他本件弁論に現われた諸般の事情を併せ考えても、本件婚姻の継続を相当と認めるに足りない。

以上の次第で、被控訴人の本件離婚の請求は理由がある。

而して、原審における各当事者本人尋問の結果によれば、被控訴人と控訴人藤助との間の長男邦夫及び長女和子は、いずれも現在控訴人方で養育されて、何事もなく過していることが認められ、その他本件弁論に現われた諸般の事情を勘案すれば、右二児の親権者は、控訴人藤助と定めるのを相当と認める。

二、慰藉料の請求について

被控訴人が本件離婚によつて精神上重大な損害を被つたことは推認に難くない。そして、右は、控訴人両名の行為または不行為が相まつてこれを惹起したものであることは、前段認定の通りであるから、控訴人両名は、共同不法行為者として、被控訴人に対し、右損害賠償のため、相当額の慰藉料を支払う義務あるものというべきである。よつて、右慰藉料の額を考察する。

被控人は、精華高等女学校を卒業し、昭和一八年梅園学院に入学してこれを卒業したもので、その父高橋和麿は元陸軍歩兵中佐で退官後は国分寺郵便局長をしておつて、昭和二二年一月中に死亡したが、その間在郷軍人会の北多摩郡連合分会長、国分寺分会長、北多摩地方保護委員その他数個の名誉職を勤めていたものであること、および、控訴人藤助は東京府立立川第二中学校を卒業し、昭和一七年日本獣医学校に入学してこれを卒業したものであること、はいずれも当事者間に争いなく、原審証人高橋鉚子、同高橋栄の各証言及び原審における被控訴人本人尋問の結果を綜合すると、被控訴人は前記高橋和麿と妻栄との五女で本年三五才、現在、実家では、母栄が支給される遺族扶助料と、被控訴人所有名義の家屋から上る家賃等の収入で、別段不自由なく暮していること、本件婚姻は初婚であること、被控訴人は将来理容師として自活すべく目下その準備中であることが認められる。一方、控訴人良助が大邦建設株式会社の代表取締役、控訴人藤助は同会社監査役であることは、前記認定の通りであり、また控訴人等の自認するところによつても、控訴人良助の資産収入としては、大邦建設株式会社所有にかゝる国分寺所在木造二階建の花沢湯一棟を現在賃貸中で、その賃料月額四五、〇〇〇円、国分寺所在の貸家一棟九坪二合九勺を所有し、その賃料月額六、〇〇〇円、府中市所在の貸家一棟を所有し、その賃料月額六、〇〇〇円、府中市内の土地三〇〇坪所有し、そのうち一六〇坪を映画館に賃貸中であり、他に水田約一反歩を所有していること、控訴人藤助の資産収入としては、前記花沢湯の敷地約三五〇坪を所有するものであることを認めることができるし、右事実に成立に争いのない甲第一ないし三号証、原審における控訴人両名各本人尋問の結果を綜合すると、控訴人良助は、右の外にも、自宅の家屋敷を所有しているものであること、なお、控訴人藤助は、控訴人良助と妻ムメの長男で、本年三六才であることを認めることができる。そして、以上の各事実を、前段認定の本件婚姻継続の期間、離婚に至るまでの経緯、その他本件弁論に現われた諸般の事情を綜合すると、前記慰藉料の金額は、一五万円を以て相当と認められる。

(内田 鈴木 入山)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!