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東京高等裁判所 昭和34年(ネ)2466号 判決 1960年12月14日

控訴人 国際交通株式会社

被控訴人 柳原安造 外一九名

主文

原判決を取消す。

被控訴人等の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人等の負担とする。

事実

控訴代理人は、主文と同旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張、証拠の提出、援用、認否は、次に記載するほか、原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。

(控訴人の主張)

一、被控訴人主張の本件株式は訴外大平武二所有のものではなく、控訴会社の代表取締役たる訴外荒川三治所有の株式であるから、被控訴人等が大平武二から本件株式を譲受けても、その所有者となることはできない。

二、控訴会社においては、株式の譲渡方法につき譲渡証による方式を執ることと定め、株券の形式もそのように作成せられている。すなわち、譲渡人と譲受人が会社に対し、連名にて名義書換を請求し、それによつて株主名簿に記入し、会社が承認印を押すことを根本方法としているのであり、この方式は譲渡証書による譲渡である。しかるに、本件譲渡は右の方式によつたものではなく、本件株券に被控訴人等の氏名はなく、譲渡人としての大平武二とみるべき印のみ、取得者氏名欄にあるのみである。

(被控訴人等の主張)

一、控訴人陳述の第一項記載の主張は、時機に後れた攻撃防禦の方法であるから却下を求める。

二、株式譲渡の方法につき、控訴会社において、仮りにその主張の如き定めをしているとしても、右は商法の規定にてらし許されないものといわなければならない。

(証拠)

控訴代理人は、乙第六号証の一ないし一四を提出し、当審における証人松本三亀男の証言並びに控訴会社代表者荒川三治の本人尋問の結果を援用し、被控訴代理人は、当審証人大平武二の証言を援用し、乙第六号証の一ないし一四の成立を認めた。

理由

被控訴人等は、それぞれ控訴会社の株式を訴外大平武二より譲渡を受けたとして、控訴会社に対しその名義書換を請求しているので考えるに、成立に争いのない乙第一号証の一ないし一〇、同第二号証の一ないし一九、原審並びに当審証人大平武二の証言、原審における被控訴人笠原玄一、同酒井章及び同柳原安造(第一回)の各本人尋問の結果を綜合すれば、次の事実を認めることができる。すなわち、

被控訴人等は、昭和三三年二月一〇日頃訴外大平武二より同人名義の控訴会社の株式を別紙目録記載のとおり譲り受けたが、右株式の譲渡の方法は、いずれも株券の裏面の取得者氏名欄(株券の裏面には、年月日欄、取得者氏名欄及び取締役証印欄がある。)に譲渡人たる訴外大平武二の印を押捺しただけで、同人の署名も記名もない。

右によれば、本件株式の譲渡は裏書の方法によつてなされたものというべきである。控訴人は、控訴会社においては、株式の譲渡方法につき譲渡証による方式を執ることに定めており、株券の形式もそのように作成せられているものであると主張するけれども、商法第二〇五条第一項は、記名株式の譲渡につき、株券の裏書による方法と株券に譲渡証書をそえて交付する方法とを認め、株主はそのいずれの方法を執るかは自由に選択しうるところであり、会社は定款の規定をもつてしても右のいずれか一方の方法にのみ制限することを得ないものと解するを相当とする。したがつて、仮に、控訴人主張の如く、控訴会社において株式譲渡方法を定めているとしても、株式を譲渡しようとする株主は、右の定めに従うことを要しないものというべく、控訴人の右主張は到底これを採用することができない。

控訴人は、本件譲渡の裏書方法は、譲渡人大平武二が株券にその印鑑を押捺しただけであつて、その署名または記名がなく、しかも右捺印は控訴人に届け出た印鑑によるものでないから、裏書の方式はその所定の要件を欠いており、本件譲渡は無効であると主張するので考えるに、記名株式を株券の裏書によつて譲渡する場合には、その裏書につき商法第二〇五条第二項において手形法第一三条の規定を準用しており、これによれば裏書は譲渡人の署名または記名捺印を必要とするものであるから、前記認定の如く本件株式の譲渡人たる大平武二の捺印のみあつてその記名のない裏書は、その形式的要件を欠き、その効力がないものと解すべきである。かく解することを以て形式的な解釈となすは、記名株式の裏書に手形裏書と同様署名または記名捺印という厳格な方式を要求し、以て取引の安全確実を期している法の精神を無視するものといわざるを得ないし、両者の裏書に差異をつけるべき実質的な理由も存しない。もつとも、株券の裏書をなすにあたつて、単に捺印のみをなし、記名をしないまま株券を譲受人に交付した場合は、通常譲渡人が譲受人に対し、自己の記名の補充を委託したものと認め、この補充権は株券と共に移転し、株式の取得者がこれを取得するものと解し得るとしても、補充の必要ある取得者において記名を補充することによつて、初めて株主たることの形式的資格を取得するに至るものと解すべきである。従つて株券の取得者において、裏書欄の譲渡人の記名を補充しないで、そのまま株券を提出して名義書換を請求しても、会社としては、その裏書は方式を欠くものとして名義書換を拒否しうべきものといわなければならない。或は、この場合右補充を会社に委任したものとみるベきであつて、会社は右の記名を補充した上名義書換をなすべきものであるとする見解があるが、会社がこのような補充義務を負担する理由はないし、会社において裏書譲渡が実質上無効であると考えた場合でもなお補充義務を負担せねばならないとするならば、会社の意思を無視する不当の結果となり、到底右の見解に賛成するわけにゆかない。

しからば、被控訴人等が控訴人に対し、方式不備の裏書ある株券によつて名義書換を求める本訴請求は、その余の争点の判断をなすまでもなく失当であるから、これを棄却すべく、本件控訴は理由があるから、民事訴訟法第三八六条、第九六条、第八九条、第九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 角村克己 菊池庚子三 吉田良正)

目録

国際交通株式会社株式 大平武二名義

譲受人     株券記号番号     種類  枚数

(一)柳原安造   自ろ第五八号至第六四号 五百株券 七枚

自ろ第六七号至第六九号 五百株券 三枚

(二)笠原玄一   ろ第六六号       五百株券 一枚

(三)酒井章    ろ第六五号       五百株券 一枚

(四)野々垣弘   い第二七九号       百株券 一枚

(五)沼尻健三   い第二七八号       百株券 一枚

(六)柳原信二   い第二八八号       百株券 一枚

(七)銭谷敏夫   い第二八七号       百株券 一枚

(八)笠原敏暉   い第二八六号       百株券 一枚

(九)柳原徹    い第二八五号       百株券 一枚

(十)持田八郎   い第二八九号       百株券 一枚

(十一)持田新一  い第二九〇号       百株券 一枚

(十二)米田武   い第二九一号       百株券 一枚

(十三)秋元幸男  い第二九二号       百株券 一枚

(十四)銭谷フミ子 い第二九三号       百株券 一枚

(十五)軍地政明  い第三〇七号       百株券 一枚

(十六)堀越正邦  い第三〇六号       百株券 一枚

(十七)武井成男  い第三〇五号       百株券 一枚

(十八)宮台孝之  い第二八三号       百株券 一枚

(十九)宮台誠之助 い第三〇四号       百株券 一枚

(二十)古橋光   い第二八二号       百株券 一枚

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