大判例

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東京高等裁判所 昭和34年(ネ)263号 判決

大洋信用金庫

控訴人主張の相殺の抗弁について判断するのに、証拠を綜合すれば次の事実を認めることができる。すなわち、控訴会社は、昭和三十年十月十五日被控訴金庫より借り受けた金五百万円の支払確保のため同額の約束手形一通を振り出していたが、右手形が満期の昭和三十年十一月二十四日に銀行に呈示されて不渡となつた後、その不渡が発表される前の同月二十六、七日頃被控訴金庫に対し、控訴会社所有の汽船大幸丸に被控訴金庫のため債権額一千万円の抵当権を設定すべきにつき、右貸金五百万円の弁済を猶予し、手形を取り戻してその不渡処分発表を防止されたく、且つ新たに金五百万円の貸増を受けたい旨申し出で、なお右大幸丸には既に訴外黒崎庄太郎より同人のため停止条件附代物弁済契約に基く所有権移転請求権保全の仮登記を経由して金一千万円を借り受けてあるので、被控訴人より貸増を受けるべき金五百万円及び第三者より融通を受けるべき金一千万円を以て黒崎庄太郎に対する右金一千万円の債務及び別口の約金四百万円の債務を弁済し、前記仮登記の抹消を受けた上被控訴人のため債権額一千万円の抵当権を設定するものである旨説明したので、被控訴人においても、それまでの控訴会社に対する貸金は無担保であつた関係から、右のような手続がとられて被控訴金庫の債権の回収の確実を期し得られるならば金五百万円の貸増をなしてもよいとしてこれを了承し、被控訴金庫のため抵当権設定登記の申請をなすに必要な書類の用紙を控訴会社に交付したことが認められる。

しかしながら、被控訴金庫と控訴会社との間に右のように金員貸増に関し条件、方法等の打合せが行なわれ意見が一致したればとて、これを以て直ちに金銭消費貸借の予約が成立し被控訴金庫において予約上の債務を負担したものであると断定することは早計であるのみならず、証拠を綜合すれば、控訴会社からは同月二十九日被控訴金庫のため抵当権設定登記を申請するに必要な資格証明書及び印鑑証明書を準備して被控訴金庫に赴いたけれども、被控訴金庫より作成押印を求められた抵当権設定契約書、同登記申請委任状等に控訴会社の押印をなしたものは準備せず、又黒崎庄太郎のための前記仮登記の抹消登記申請をなすに必要な措置をとつたことを被控訴金庫に明らかにすることができなかつたので、被控訴金庫は右新規の金五百万円の貸増をなすことなくして終つたことを認めることができる。なお、証拠によれば、控訴会社においてはその際被控訴金庫から要求された抵当権設定のための必要書類に押印はしなかつたけれども、押印に必要な印鑑を持参していたことが推認できるが、仮りに控訴会社において所要の印鑑を持参し、被控訴金庫のため抵当権設定及びその登記申請に必要な書類を差入れる準備を完了していたとしても、それだけでは被控訴金庫が金五百万円の新規貸増をしなかつたことを被控訴金庫の責によるものとして非難することはできない。けだし被控訴金庫は単純に金五百万円の新規貸増を承諾したものではなく、前記のとおり旧貸金五百万円が無担保であつたのでこれと新規貸増金五百万円とを併せた金一千万円につき抵当権の設定を受けること、しかも先ず担保物件の上に既に存在する黒崎庄太郎のための所有権移転請求権保全の仮登記の抹消登記を受けた上で被控訴金庫のため抵当権設定登記年続をなすことという条件で新規貸増を了承したものであるから、右仮登記が抹消されない限り、たとえ被控訴金庫のために抵当権が設定され、その登記を経由されても、将来黒崎庄太郎が右仮登記に基く所有権取得の本登記を経由するときは、被控訴金庫の抵当権はこれを黒崎庄太郎に対抗できないこととなるので、被控訴金庫としては右抵当権によつては担保の実を挙げることができないことになる。従つて、被控訴金庫においても、黒崎庄太郎のための右仮登記が抹消されることが確実であることを知り得る何らかの手段がとられ、自己の債権のために設定される抵当権は確実に担保の実を挙げることができるという何らかの具体的な保障がない限り、単に控訴会社の言葉だけの説明、すなわち黒崎庄太郎はその債権の弁済を受けるときは、既に代物弁済の停止条件が成就しているにかかわらずその権利を放棄して仮登記の抹消登記手続をなすことを承諾しており、同人に弁済すべき資金の融通をしてくれる第三者も決まつており、被控訴金庫から金五百万円の貸増がなされるならば右の第三者も資金の融通をしてくれるから、それによつて確実に黒崎庄太郎に弁済してその仮登記の抹消登記を受けることが可能であるという言葉の上の説明を聞いただけでは被控訴金庫としては、たやすく金五百万円の貸増をすることができないことは一般取引上当然といえよう。そうして、被控訴金庫をして、控訴会社のかような説明が具体的に確実性を具備していることを納得させることができる保障の方法としては種々考えられるけれども、本件においては控訴会社においてこの点につき何らか具体的な配慮をした形跡は全く認められない。従つて、被控訴金庫が当時金五百万円の貸増をしなかつたことを以て、その責に帰すべき債務不履行であるということはできない。

よつて、被控訴金庫の前記貸金並びにこれに対する遅延損害金の支払請求を認容し、控訴会社の反訴請求を棄却した原判決は相当であるとして、本件控訴は理由がないとこれを棄却した。

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