東京高等裁判所 昭和34年(ネ)2839号 判決
常磐相互銀行
控訴人は、被控訴人主張の日時、被控訴銀行と訴外堀越彦一郎間に被控訴人主張のような融資契約が締結されたことは知らないし、控訴人が右訴外人の債務につき連帯保証や抵当権の設定をしたことがない、と主張するので、この点について判断するのに、証拠によれば、控訴人は訴外堀越彦一郎の負担する本件債務について連帯保証をしたことがなく、またこの債権を担保するため本件各不動産に根抵当権を設定し、その登記手続をしたこともないのであつて、根抵当権設定契約書(乙第一号証)、担保書(同第二号証の二)、土地建物根抵当権設定登記申請書(同第四号証)、上記登記申請の委任状(同第五号証)中各控訴人名下の印影は右訴外人が控訴人に無断で持ち出した控訴人所有の印顆によつて顕出せられたものであることが認められる。
しかしながら、本件取引当時控訴人が七十才に近い高令であつたことは控訴人本人の供述する年令から推認されるのであり、証拠によれば、控訴人は名目上農業を営んでいることにはなつているが、事実上何もしないで将棋を指したり魚釣りしたりして隠居的日常を過ごし、不動産にかかつてくる税金の納付その他家業一切はあげて訴外堀越彦一郎(同人が控訴人の長男で家業の製菓業を継いだものであることは証拠により明白である。)が切り盛りをしていることが認められ、更に他の証拠を綜合すれば、控訴人は訴外人と同一家屋又は同一屋敷内に住み、訴外人の製菓業に協力的であつたこと、訴外人と被控訴人とは従前も取引関係があつたこと、訴外藤井三郎が本件取引に当り控訴人宅を訪れ本件融資の趣を説明したところ、控訴人は右藤井三郎に対しよろしく頼む旨を述べていること、控訴人の印顆は訴外堀越彦一郎が自由に出し入れできる状態になつて居り、本件取引に必要な書類(前記各乙号証)にも右控訴人の印顆が押捺されていることがそれぞれ認められる。
以上のとおり認められるところ、これら認定の事実をもとにして考えると、訴外堀越彦一郎は控訴人から(本件取引の代理権は与えられていなかつたとしても)少なくも前記の程度の代理権は与えられて居り、その代理権の範囲を越えて控訴人名義で連帯保証、根抵当権設定及びその登記手続をしてしまつたのであるが、被控訴人は訴外人が控訴人の承諾の下に右各行為をするものと信じて本件取引をしたのであり、これを信ずるについて正当の理由があつたものと認められるから、控訴人は本件取引について民法第百十条の規定による責任を免れることができず、従つて保証債務と根抵当権の不存在確認及び根抵当権設定登記の抹消登記手続を求める控訴人の本訴請求は何れも失当としてこれを棄却する。