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東京高等裁判所 昭和34年(ネ)285号 判決 1960年4月27日

控訴人 有限会社山惣商店

被控訴人 東京中重自動車株式会社

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人訴訟代理人は、原判決を取消す、被控訴人の請求を棄却する、別紙目録記載の物件が控訴人の所有に属することを確認する、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とするとの判決を求め、被控訴人訴訟代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述並びに証拠の提出、援用及び認否は、被控訴人訴訟代理人において、原判決事実摘示中請求原因一の(ロ)の「即時一一五、〇〇〇円」(記録一四二丁裏十行目)を「即時一一、五〇〇円」に、被告の抗弁に対する原告の陳述中「走行粁数は四六粁」(記録一四三丁裏末行)を「走行粁数は四八粁」にそれぞれ訂正する、控訴会社は質屋営業を営むものであると訂正附加し、証拠として新たに甲第五号証ないし第八号証を提出し、当審証人小宮庄三郎の証言を援用し、控訴人訴訟代理人において、被控訴人の右金額の訂正に異議はない、控訴会社が質屋営業を営むことは認めると述べ、当審証人今泉彰の証言を援用し、甲第五、第六号証の成立を認める、同第七、第八号証は符箋のみ成立を認め、そのほかの部分の成立は不知と答えたほかは、いずれも原判決事実摘示の記載と同一であるから、これをここに引用する。

理由

当裁判所は当審で新たに提出された証拠をも加えて検討した結果被控訴人の本訴請求は正当として認容すべく、控訴人の反訴請求は失当として棄却すべきものと判断する。その理由は次に附加するほかは原判決の理由中の説示と同一であるから、これをここに引用する。附加する点は次のとおりである。

控訴人が質屋営業を営んでいることは当事者間に争のないところであり、成立に争のない甲第四号証の一ないし三によれば、東京都内における軽自動車の販売はその大半が代金完済まで売主に所有権を留保する月賦販売の方法によつて行われ、この種の月賦販売品が代金完済前に買主によつて不正に処分される例が多いので、昭和三十一年警視庁より各警察署長、東京質屋協同組合を通じその組合員に軽自動車を質にとる場合にはその点に注意を払うよう周知方をはかつた事実が認められるので、控訴人もまた質屋営業者として右のような事情は当時これを知り又は知り得たはずであつたことを推認すべく、当審証人小宮庄三郎の証言及び同証言により昭和三十三年二月当時本訴各物件を撮影した写真と認められる甲第五、第六号証によれば、本件各車輛はいずれも走行時間数時間を出でない新品同様の軽自動車ないしこれに準ずべき品であつて、そのことは車体に備付けてある走行粁数メーターにより一見明瞭であることが認められ、しかも成立に争のない甲第一号証の六及び当審証人今泉彰の証言によれば、本訴第一物件については、控訴人が物件とともに受領した軽自動車届出済証には明らかに所有者欄に被控訴人の名称、所在が「サンコー」の名称所在とともに併記されているので、控訴人においては、右記載に基いて被控訴人に電話で問合わせる等の簡易な方法で容易にその権利関係を明らかにできたはずであつたにもかかわらず控訴人はその措置を執らなかつたことが認められ、又本訴第二物件については、右「軽自動車届出済証」のようなものが存在しないので控訴人から区役所に電話で紹介した結果その登録番号の車は加藤高正が使用名義人となつていることを確めたことは当審証人今泉彰の証言により認められるけれども、それによつて知り得るものは使用者であつて所有者ではないことは当審証人小宮庄三郎の証言によつて明らかであり、右物件も前記のように殆んど新品同様で多数人の間を転々した物とは認められないから、控訴人において持参者にその買入先を問い、その買入先に電話で照会する等の簡単な措置を執り又は執ろうとすれば、右物件が少くとも持参者の所有ではないことが看破できたはずであつたにもかかわらず控訴人においてこの簡単な措置をも執らなかつたことは当審証人今泉彰の証言によつて明らかである。以上のような措置は、一般の動産取引全部にこれを期待することはもとより困難であり、金額の少ない動産についてはかような措置を執らなかつたことから買受人の過失を認めることはできないけれども、本件第一、第二物件のように、動産とはいえ相当高価で容積も大きい車輛であり、しかも買受後間もない新品同様の品であり、広く月賦販売が行われていて、買受後日を経ていない物は月賦金未払でなお使用者の所有となつていない可能性の大きいことが推認できるような動産については、前記のように買入先を問いその買入先に照会を試みる程度の注意を払うことは質屋営業者として当然執るべき義務と認められるから、その注意を払わなかつた控訴人は、当審証人今泉彰の証言によつて認められるように、右物件は現金で買つた自己所有の品である旨の持参者の談話を信用してこれを受領したとしても、なおその占有の開始について過失なしということを得ない。従つて控訴人につき民法第百九十二条による所有権ないし質権の即時取得を認めることはできない。

以上の次第で控訴人に対し本訴第一、第二物件の引渡を求める被控訴人の請求を認容し右物件の所有権の確認を求める控訴人の反訴請求を棄却した原判決は相当であるから、民事訴訟法第三百八十四条、第九十五条、第八十九条に従い主文のとおり判決する。

(裁判官 川喜多正時 小沢文雄 位野木益雄)

物件目録

第一、軽自動車 一輛

車輛番号な七〇一五、車名シルバーピジヨン号

年式型式五七年式C九〇型、車体番号五七C-九〇-三四六四三、原動機型式NE-九A

第二、二種原動機付自転車 一輛

届出車輛番号中野六六二二、車名シルバーピジヨン号、

年式型式五八年式C七〇型、車体番号五八-C-七〇-三九三八七

原動機番号NE七A三九六九七

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