大判例

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東京高等裁判所 昭和34年(ネ)452号 判決

控訴人らは、「被控訴人は加藤が控訴人らを代理する権限のないことを知つていた。仮りにそうでないにしても代理権ありと信ずるについて正当な理由がなかつた。」と主張するので考察するに、本件に顕われた全証拠に徴しても被控訴人が加藤に控訴人らを代理する権限のないことを知つていたということを認めることはできないから悪意の主張は理由がない。そこで被控訴人が加藤に代理権ありと信ずるについて正当な理由があつたかどうかについて考えてみると、表見代理は本来代理権のない者がなした代理行為の効力を本人に及ぼし本人にその責任を負わせるものであるから、その相手方において、代理人と称する者に代理権があると信ずるについて正当な理由があつたかどうかを判断するに当つては、取引の実態に基き諸般の事情を斟酌した上、慎重になされなければならならないことは明らかである。ところで、第三者が債務者のためにその所有不動産を担保に供することを承諾することは必ずしも稀有のこととはいえないけれども、悪質な債務者が、第三者の承諾を得ていないにもかわらず、不正の手段によつてその者の不動産を担保に差入れるということもまた世上往々に存する事例である。ことに債務者自身が第三者の代理人となつて、第三者所有の不動産に担保権を設定する場合においては、とくにその虞の存することが少くないこともまた多言を要しないところである。従つて債権者が債務者から、同人が第三者の代理人として第三者所有の不動産に抵当権を設定すべき旨の申入れを受けた場合には、よく債務者の信用状態に留意し、担保提供者名義で作成された書類が真正であるかどうについて調査するにとどまらずその第三者が真実債務者のためにその所有不動産に抵当権を設定することを承諾しているかどうかについて、確認の方途を構ずるのが取引上の要請であるものと解するのが相当である。これを本件の場合についてみるに、証拠を総合すると、本件根抵当権設定契約ならびにその登記手続について、被控訴会社においては社員(油脂課長)の河野勇を代理人として加藤石油と折衡させ、一切の手続を代行させていたこと、被控訴会社と加藤石油とは昭和三十一年二月頃から石油継続販売取引を開始したのであるが、その取引の当初から右加藤石油ならびにその代表取締役たる加藤三郎には見るべき資産がなかつたこと、右河野勇は取引開始以来常に加藤石油に出入りし、その資産営業状態をよく知つていたこと、右取引開始後二カ月余を経過した同年四月下旬頃被控訴会社から加藤石油に対し増担保を求めたところ、加藤石油の代表取締役たる加藤三郎から控訴人らを代理して同人ら所有にかかる本件不動産上に金百七十万円を限度とする根抵当権を設定する旨の申入れを受けたが、その際被控訴会社の代理人たる河野は控訴人らとは従来全く面識がなく、控訴人らと加藤石油との関係について加藤からなんら説明を受けずまたこれを加藤に訊すこともなく加藤より交付を受けた前記各書類が形式上整つていることに安んじ控訴人らが加藤石油のために物上保証人となることを承諾しているかどうかについて照会その他なんらの調査方法をとらなかつたばかりでなく、右契約締結に先立ち、河野は上司である被控訴会社総務部長国本英義らとともに、本件不動産評価の目的で、わざわざ控訴人方を訪れ、控訴人金太郎の妻浜野シマに面会しているにかかわらず、本件根抵当権設定の件に関しては一言も触れず、控訴人らがそれを承諾しているかどうかについて全然確かめることをせずして手続を進め同年七月七日別紙第二目録記載の登記手続をしたことが認められる。原審証人河野勇(一、二回)、同国本英義の各証言および当審における被控訴会社代表者小川肇本人尋問の結果中右認定に反する部分は当裁判所の措信しないところであつて、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。以上認定の事実によれば、被控訴人は本件根抵当権設定に際し控訴人らの真意を確認すべきが相当であり、しかもそれは一挙手一投足の労により容易にこれをつくすことができる状況にあり、かつそれをすることができないほど急迫した事情はなかつたものと認められるから、被控訴人は、加藤三郎が本件不動産に根抵当権を設定するについて控訴人らを代理する権限があると信ずべき正当の理由があつたものとは認め難い。

(大場 町田 下関)

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