東京高等裁判所 昭和34年(ネ)467号 判決
被控訴人主張の土地がもと訴外宮井慶太郎の所有であつたところ昭和二十五年十一月十六日訴外不動田鶴一のため同日付売買を原因とする所有権移転登記がなされたことは当事者間に争がなく、成立に争のない甲第八、第九号証並びに法務局作成部分は争なくその余の部分は原審証人神谷タメの証言により真正に成立したものと認める甲第十号証によれば、被控訴人が昭和二十九年九月一日神奈川簡易裁判所において起訴前の和解の成立した結果として不動田鶴一から右土地を代金百二十万円で買受け、代金を支払い、同月二十四日その所有権移転登記を経たことを認めることができ、右認定を動かすことのできる証拠はない。
そうして当裁判所は、右土地の登記簿上の所有名義が前記のように宮井慶太郎から不動田鶴一に移転したのは、当時設立発起中であつた寿興業株式会社が将来成立した後においてその劇場建設用地として使用させる目的の下に先ず右土地を確保しておく必要があるという理由で、同会社設立のための発起人組合が発起人総代不動田鶴一に一任してこれを組合のために購入し、同人に委任して会社成立まで組合のため一時同人名義を以て所有権取得登記を経由させた結果であると判断する。その理由は当審証人山県資郎の証言もまた右事実を認定する資料の一となること及び原審証人不動田正男の証言中右認定に反する部分は採用できないことを附加するほかは、原判決理由中この点に関する説示の記載(記録五三一丁裏二行目から五三三丁表末行まで)と同一であるから、これをここに引用する。
株式会社の発起人等が土地の購入のように会社成立後の開業準備行為をなすことは、本来は会社設立のための行為の範囲を逸脱するものであつて、将来会社が成立した場合にその効果を当然に会社に帰属させることはできないけれども、発起人等がその合意によりかようなことをも発起人組合の共同の事業として行うことはこれを無効とすべき理由なく、右売買は発起人組合のための行為として有効であつて、かようにして購入せられた土地は発起人組合の組合財産を構成するものというべきである。
被控訴人は、右発起人組合は控訴人等の出資義務不履行により不動田鶴一の右土地買入前に自然消滅に帰していたものであると主張するのでこの点に関する前示判断を更に敷衍する。成立に争のない甲第三、第四号証及び原審証人不動田鶴一、同神谷タメ、同小野延吉(第一回)、同大谷豊治、同宮城菊太郎(第一回)の各証言を総合すれば、不動田鶴一は、昭和二十五年六月二十四日右組合のため本件土地の前所有者宮井慶太郎との間に右土地の売買契約を締結し、代金十二万七千八百円の内金五万円を手附として支払い(その出所が不動田鶴一自身かその他の組合員であつたかは、しばらくおく。)、これを前記組合のため確保することができたにもかかわらず、発起人組合には残代金支払の資金なく、昭和二十五年十一月には発起人総代の名で各組合員に対し、土地残代金等に充てることを理由として一人当り金七万五千円宛の割合で出資金の払込を求めたけれどもこれに応ずる者もなかつたので、不動田鶴一は、右土地の喪失を防ぐため売主に交渉し、残代金は将来組合員の出資金の払込を得て後支払うこととして取敢ず前記のように自己の名義に所有権移転登記を受けることができたこと及び同人はその後も出資金の払込をする者がなかつたので、やむなく残代金の全部又は殆んど全部を自ら自己の出捐でその後分割して売主に支払つたけれども、会社設立の事務は依然として進行せず、何時とはなく右会社の設立は沙汰やみとなつたことを認めることができる。しかしながらこのように結局会社は成立するに至らなかつたけれども、昭和二十五年六月二十四日の売買契約が発起人組合のためになされたものであることは前記のとおりであり、前示のように同年十一月不動田鶴一が発起人総代として各組合員に対し右土地の代金支払に充てる理由で出資金の払込を求めている事実から見ても、右会社の設立が沙汰やみとなつたのはそれより更に後のことであることは明らかであり、本件土地が発起人組合の組合財産を成すものであつたことはこれを否定することができない。各組合員の会社設立に対する無関心ないし不協力や後に至つて会社の設立が沙汰やみとなつたような事情は、組合の解散が問題となるときに考慮される事情ではあるが、仮に組合が解散したとしても、前記のように、その前に右土地の売買が組合のためになされ、これにより右土地が組合財産として一旦組合員の共有に属するに至つたことまでを動かす事由とはなし難い。
(川喜多 小沢 位野木)