大判例

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東京高等裁判所 昭和34年(行ナ)29号 判決

原告の本件特許出願は昭和二八年四月三〇日に発明の名称を「電気式塗装方法」としてせられ、その要旨とするところは、その明細書の特許請求の範囲の項に記載せられた通り「塗装用溶液で満たされた細管の先端において、溶液自体を一方の電極とする不平等電界を作らせ、この時の電気力を、溶液が細管の先端に止まろうとする力よりも大きくなるようにして細管の先端から溶液を噴出させ、この噴出溶液を目的物に射突させて塗装を行う電気式塗装方法」にあるものと認められ、なお右発明の実験の一例として明細書に示されたところによれば、細管先端の直径〇、四粍、塗装目的物たる金属円板の直径二〇粍、両者の間隔を一〇粍とし、約三千ボルトの電位差を与えて好結果を得たとしていることが認められる。

成立に争いのない乙第一号証によれば、審決で引用せられた橋本清隆著「新らしい塗装と乾燥」は昭和二七年一一月三〇日東京都千代田区神田錦町三の一株式会社オーム社により発行せられた刊行物であつて、その三〇頁から三七頁に亘つて静電噴霧式静電塗装装置の記事があり、この記事中には「電極として椀形回転体を用い、その中心から塗料を圧力を以つて押し出し、椀体の回転による遠心力によつてこの塗料を椀体の内面に薄膜状に拡がらせ、椀体の周縁に達した塗料に電極と同極性の電荷を得させて電気力によつて射出させる電気式塗装方法」のことが記載せられていることが認められる。

原告は本願発明は右引例から容易に推考できる程度のものではなく、引例とは異なる新規な発明を構成するものとし、その理由として

(イ)、引例では電極に塗料を送り込むのに或る圧力を要するに反し、本願のものでは電気力以外の力を加えないで、電気力それ自身で塗料を細管の先端から噴出させる。

(ロ)、引例では塗料を射出するために十万ボルト程度の電圧を必要とするに反し、本願のものでは三千ボルトで足りる。この電圧の差は大なるものを単に縮少したと見る当然の結果とはなし得ない。

と主張する。そこでまずこの点について検討する。

(一)、まず(イ)の点について考えてみるのに、原告は本願のものでは電気力以外の力を借りるものではないとして、細管に塗料を満たすために、たとえ重力を用いても圧力を加えれば本願の発明ではなくなるものであり、本願発明では塗料容器から塗料を吸引するのも電気力によるのがその特徴であると主張するが、前示甲第一号証の一、二によれば、本願の明細書には塗料容器と細管との関係位置については特別の説明はなく、塗料容器についてもただ

(1)、而して細管(2)に連なり溶液を収容する容器が金属なるときは…………

(2)、液容器の器壁に穿つた細孔からは以上と全く同様に電界により液を噴出せしめ得るのであつて、此処では細管を形成するものとみなし、斯る場合も本願に含有せられるものとする。との記載があるだけであつて、勿論前記のような塗料容器から電気力により吸引する等の説明はせられておらず、容器から細管に至るまでの塗料の輸送方法については何等の限定もせられていない。そしてただ「溶液で満たされた細管の先端において」とだけ記載せられているにすぎないのであるから、本願においても、容器内の液面から細管までの液の高さに応じた圧力が加わり、この圧力によつて細管内に液が満たされる場合をも包含するものと解するの外はないところであり、従つて本願のものと引例のものとはこの意味においても合致するところがあるものであつて、これを全く相違するものとする原告の右主張は到底これを採用することはできず、原審決において右の点に特に言及するところがなかつたとしても、原審決は右の点を当然の前提としたものと解するのが相当であるから、この点においても原審決に違法があるものとすることはできない。

(二)、次に(ロ)の点であるが、前示甲第一号証の一、二及び乙第一号証によれば、なるほど原告主張の通り引例と本願とではその使用電圧に大差があることが認められるが、右各証拠を総合すれば、電極の間隔は引用例の方が遙かに大きく、塗料の噴出量も引例の方が遙かに大きいものと考えられるから、単に使用電圧のみを比較して直ちに本願のものと引例のものとの間に当然以上の差異があるものともすることはできず、右原告の主張もまたこれを採用することはできない。

前認定の本願要旨及び引例の記載から考えれば、本願も引例も、強い電気力による導電性塗料の微粒化、射出を利用するものであることは間違いのないところで、この点に着目していえば、本願の細管の先端に位する塗料は、引例における椀形電極周縁上の塗料の一小部分に相当するものである。

ところで前示乙第一号証の三二頁には「塗料の供給量を増すためには単に塗料の供給量を増すのでなく電極の周縁長を、したがつて電極の直径を増すことが必要である。一般には直径二、五―二〇cmの範囲の電極が用いられる」との記載があり、この記載は「塗料の供給量が少くてよい場合は電極の直径は小さいもので足りる」ということに外ならないから、一般に使用されるという電極の最少の直径である二、五糎の場合よりも少い塗料供給量で塗装を行う必要を生じたときは、電極の直径はより少さいもので足ること、また塗料の供給量が更に少い場合は、電極は最早椀形とする必要はなく細管で事足ることも右記載から容易に読みとり得るところというべきであり、更に細管ならばこれを回転する必要のないことは見易い道理であるから、本願のように回転しない細管を用いることは、引用公知事実の存在下において、いわゆる当業者が必要に応じて設計として容易に為し得べき程度のものであり、格別の工夫を要する程のものとは認められない。

以上の通りであるから、審決引用の方法と本願の方法とは、引例が大量の塗料を噴出させるために椀形電極を用いるに対し、本願は小量の塗料を噴出させるのに細管を用いるという差異があるにすぎないもので、その効果も当然の結果以上に出るものがあるとも認められないところであり、本願方法は前記の引例から容易に推考できる程度のものにすぎないものというべきであるから、右と同趣旨に出た原審決は相当であつて何等の違法もない。

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