大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和35年(う)1302号 判決

被告人 御窪袈裟治

〔抄 録〕

控訴趣意第一、第二、第四について

原判決書によれば、原判決がその理由中罪となるべき事実として、被告人が原判示参議院議員選挙に際し、法定外の文書図画を頒布した旨の有罪事実を認定判示し、公職選挙法第百四十二条第二百四十三条第三号を適用していることが認められる。

これに対し所論は、要するに、(一)本件「長野自由民主特集」と題する印刷物の頒布は、被告人が自由民主党長野県支部連合会の事務局長であるため政党としてやるべき当然の政治活動であつて、適法行為であると信じてなしたものである。

現に、警察当局も、初めは、党員外に配らないように注意したのに過ぎなかつたが、後では、違法だから回収するようにと云われた位で、被告人は、適法行為と信じてなしたのだから、被告人には違法の認識がなく、従つて犯意を阻却し、本件は犯罪とならない。本件は、行政犯であつて自然犯でないから、刑法第三十八条第三項は適用がない。(二)仮りに本件につき犯罪が成立するとしても、法律不知の過失であつて、過失犯としてこれを処罰すべき規定がないから、処罰することができない行為である。(三)仮りに本件行為が公職選挙法違反であるとしても、政党の機関新聞紙及び雑誌は、政党の政治活動として選挙記事の掲載ができるのであるから、同法第二百一条の十三の違反として同法第二百三十五条の二に問擬さるべきものである。

以上のとおり、原判決には、判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認、法令適用の誤があると云うに在る。

よつて案ずるに、原判決認定の事実は、総てその挙示する証拠により優にこれを肯認することができるのであつて、記録を精査検討し、当裁判所の事実取調の結果に徴してみても、原判決の認定に誤はない。所論は、本件行為が政党の政治活動として法律上許された行為であつて、適法行為と信じてなしたものであるから、犯意がなかつた旨主張するが、本件「長野自由民主特集」と題する印刷物は、原判示参議院議員選挙に際し立候補した木内四郎候補の氏名、略歴、及び政見等を掲載し、特定の候補者たる右木内四郎の当選を得しむる目的を以て頒布したのだから、いわゆる選挙文書の頒布であつて、政党の政治活動ではない。被告人が右頒布が、政治活動であつて法律上許された行為であつたと信じたとしても、本件の如き公職選挙法違反罪に違法性の認識が犯意の成立に必要でないことは、判例(最高裁判所昭和二十四年十一月二十八日第三小法廷宣告刑集四巻二四六三頁参照)の示すところであるから、被告人にこれが犯意がなかつたと云うことはできない。従つて、仮りに警察当局から、党員外にこれを配布しないよう注意があり、被告人が右注意によりこれを政治活動に過ぎないと信じたとしても、被告人に右選挙文書頒布の犯意がなかつたと云えないことは云うまでもない。

所論は、本件は法律不知の過失犯であつて、処罰できない事案であると主張するが、右認定のとおり選挙文書頒布の犯意あること及び右頒布の犯意の成立に違法の認識の必要でないことは、前説示のとおりであつて、法律の不知につき過失の有無は問題とならないから、本件行為を目して所論のように法律不知の過失犯であると云えないことは云うを待たないところである。また、以上の説示どおり本件「長野自由民主特集」は、政党本部が政治活動として選挙に際し報道及び評論を掲載するため直接発行した機関新聞紙でないから、公職選挙法第二百一条の十三の適用はない。

従つて、原判決が挙示の証拠により判示事実を認定したのは正当であつて、右事実が公職選挙法第百四十二条に違反し、同法第二百四十三条第三号により処断さるべきものであることは明らかであるから、原判決には、所論のような判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認、法令適用の誤はない。

各論旨は理由がない。

(山田 鈴木良 渡辺辰)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!