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東京高等裁判所 昭和35年(う)1510号 判決 1960年12月26日

被告人 ブラカース・ラヤナスカ

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役四年に処する。

原審及び当審の訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

被告人の控訴の趣意中訴訟手続の法令違反を主張する点について

所論の要旨は、原審裁判所は、その審理にあたり、通訳を付したのであるが、その通訳は英語でなされ、自分はタイ国人であつて英語の理解力が乏しいので、その英語による通訳を充分に理解することができなかつたばかりでなく、自分も母国語たるタイ語によらないで英語で供述したので、意を尽さなかつた点がある、即ち、一九六〇年二月八日原審裁判所の面前で行われた裁判所と支那人(K氏と仮称)と自分との間の尋問及び供述の場合を除いては、通訳が充分でなく、自分は詳細に訳出されたものを聞かなかつたり、あるいは、全然通訳を受けなかつたというのである。

よつて案ずるに、タイ国に国籍を有する者に対する事件を審理するにあたつては、タイ国語に通ずる通訳人を選任して、日本語をタイ国語に、タイ国語を日本語に通訳することが望ましいのであるが、タイ国語に通ずる通訳人を得ることが極めて困難な現状においては、そのタイ国人が英語を理解しかつ話すことができる場合には、英語による通訳によることもやむを得ないところであり、これをもつて違法な措置であるということはできない。本件においては、被告人がタイ国人であつて英語にも理解力がありかつ話すことができたので、原審においては、各公判ごとに英語による通訳人を付して審理判決したことは、原審各公判調書の記載によつて明らかであり、原審のこの通訳人の選任には、なんら訴訟手続の法令違反はないのである。

所論は、昭和三十五年(千九百六十年)二月八日の原審における証人郭煥章(所論のK氏に該当)の尋問及び供述以外の原審の訴訟手続については、充分通訳されなかつたというのであるが、これを確認するに足りる資料がないばかりでなく、被告人が当裁判所に提出した理由書(飜訳文添付)によれば、被告人は、自己に対する被告事件の内容と原審における訴訟経過の概要を知つており、本件につき最も重要な証人である右郭煥章に対する尋問及び供述の内容を充分知つていることは被告人の自認しているところであり、また、原審各公判調書を総合すれば被告事件に対する陳述として被告人が本件公訴事実を否認した供述や被告人質問に対する被告人の供述が記載されていて、被告人が原審に対して訴えようとしたことはその意を尽していることが認められるのである。それ故、論旨は理由がない。

(その余の判決理由は省略する。)

(本件は量刑不当により破棄。)

(裁判官 下村三郎 高野重秋 真野英一)

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