東京高等裁判所 昭和35年(う)2329号 判決
被告人 古館誠
〔抄 録〕
次に職権を以て案ずるに、原判決は被告人と三橋敏雄との共同経営にかかる「バーボンソワール」において従業員である斎藤満らが女装して客席で客に接待したとの事実(公訴事実もこれと同趣旨)を認定し、これに対しいわゆる両罰規定たる風俗営業等取締法第八条等を適用して被告人を処断したのであるが、右は事実の認定を誤り、ひいて法律の適用を誤つたものであり、その誤が判決に影響を及ぼすことが明らかであるといわなければならない。そのわけは、被告人及び三橋敏雄の前記各供述調書等によれば、三橋は前に銀座にある「ボンヌール」といういわゆるゲイバーでゲイボーイとして働いていたのであるが、その店で被告人が三橋に対しこのような店を一軒持つてみないかと勧めて、昭和三十一年八月頃本件「バーボンソワール」を開店するに至つたものであつて(いわゆるゲイバーは当時は風俗営業の取扱を受けておらず、昭和三十四年三月二十日東京都条例第十号により取締の対象となつた)、被告人としては当初から従業員であるゲイボーイをして客席において客に接待させる営業方法により本件「バーボンソワール」を経営していたものであることが認められ、従つて右所為はまさに同法第七条第一項に該当するものであるといわなければならない。しからば、原判決は事実を誤認し、ひいて法律の適用を誤つたものであつて、それが判決に影響を及ぼすことは明らかであり、そして控訴の趣意第二点及び第三点は原判決の認定事実を前提とするものであるから、これに対する判断をもちいずして、原判決は破棄を免れない。
よつて刑事訴訟法第三百九十七条により原判決を破棄すべく、しかして検察官は当審において右説示するところに適応する如く訴因及び罰条の予備的追加請求をしたので(公訴事実の同一性を害しないものと認められる)、右訴因に基き同法第四百条但書により直ちに当裁判所において判決することとする。
(罪となるべき事実)
被告人は三橋敏雄と東京都新宿区新宿二丁目七十七番地において飲食店「バーボンソワール」を共同経営しているものであるが、右三橋と共謀の上、東京都公安委員会の許可なくして、昭和三十四年十月八日午前一時三十分頃同店内客席において、同店従業員でこちやんこと斎藤満、同千秋こと朝比奈文夫、同マヤさんこと坂本信治等をして、客である谷善夫外二名に対して女装して特殊の話術、態度を以て同席接待の上、酒、ジユース等を提供して飲食させ、以て風俗営業を営んだものである。
(証拠の標目省略)
(適条)
被告人の所為は風俗営業等取締法(昭和三十四年法律第二号による改正前のもの)第一条第一号、第二条第一項、第七条第一項、罰金等臨時措置法第二条に該当するので、所定刑中罰金刑を選択し、その金額範囲内において被告人を罰金四千円に処し、右罰金を完納することができないときは刑法第十八条により金二百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置すべく、原審における訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一条第一項本文により全部被告人の負担とする。
(長谷川 白河 関)