東京高等裁判所 昭和35年(う)2851号 判決
被告人 坂本定道 外一名
〔抄 録〕
所論に基き本件記録を精査して審按するに、被告人両名の原審公廷の各供述、原審相被告人松本次利、同城所実の原審公廷における各供述(但し、被告人朴の関係において)根本忠作成の被害届、根本忠の司法警察員に対する供述調書、梁太植の司法警察員に対する供述調書によると、松本次利、城所実の両名は昭和三五年八月一九日土浦市小松台二、一五〇番地土浦女子学院工事場から根本忠所有の建築用鉄筋を窃取することを共謀し、松本の友人である被告人坂本に対し、右鉄筋の売却先きの斡旋を依頼し、同人は更にこれをその知人である被告人朴に取次いだ結果、被告人朴はその買受けを承諾したので、松本、城所は被告人両名と共に、同日午後一一時頃被告人朴が都合した梁太植の運転する貨物自動車に乗込んで、東京都豊島区西巣鴨の当時の被告人朴方を出発し土浦に向い、翌二〇日午前一時過頃前記建築場に到着し、同所で建築用鉄筋約四、五屯を右貨物自動車に積込み、東京に向け帰路についたところ、その途中において警察官に発見され逮捕されるに至つたことが明認できる。
ところで、原判決は被告人両名は、松本、城所両名の言によつて、本件鉄筋は松本の稼働する現場の残材であつて松本が正当に処分し得るものと誤信した結果、被告人朴がこれを買取ることとなり、現場に至つてその積込みを手伝つたものと認められるから窃盗の犯意を欠く、尤も、被告人両名は現場に到着し鉄筋を積込んだ際、その周囲の情況により松本等においてこれを窃取するものであることを確認するに至つたものと認められるが、その際は既に事態の進行に巻込まれた形にあるものと認むべく、ここに至つて積極的に犯意を認めるのは牽強に過ぎるとして被告人両名に対し無罪の言渡しをしたものである。
よつて本件記録に現われた証拠を仔細に検討して按ずるに、
一、被告人坂本定道について
被告人坂本は、原審公廷で、自分は本件現場に来てから鉄筋を積出すについて組の者の立会がなく、また鉄筋が四、五屯もの多量であつた点から怪しい物と思つたが、なりゆきで帰えるにも帰えれず手伝つた旨の供述をなした外、同被告人の原審公廷の供述、被告人坂本の検察官に対する昭和三五年九月九日附供述調書、松本次利の検察官に対する右同日附の供述調書、城所実の検察官に対する右同日附の供述調書を綜合すると、被告人坂本は鉄筋工であつて鉄筋の売買についての智識を有すると認められること、本件鉄筋の積込みが特段の理由がないのに深夜しかも現場の監督者の立会がなく行われたこと、売買価格は市価より屯当り一万円位安価であること、積込みの現場で松本と城所が音をさせないように注意を与えまた現場では積荷にロープを掛けず、一旦校庭外に出た道路上においてロープを掛けたことが認められるから、これ等を綜合すると、被告人坂本は松本、城所の両名が本件鉄筋を窃取するものであることを察知しながらこれに加担し、その積込みをしたものであるから、窃盗の犯意を肯認するに十分である。
二、被告人朴東鉱について
被告人朴の司法警察員に対する昭和三五年八月二六日附供述調書、城所実の検察官に対する同年九月九日附供述調書、坂本定道の検察官に対する右同日附供述調書、証人松本次利、同城所実、同坂本定道の原審公廷の供述によると、被告人朴は鉄屑の売販を業とする者であること、被告人朴は松本、城所の両名から夜間鉄筋を積出すことにつき納得のゆく説明をも受けず、わざわざ小雨中の深夜本件鉄材の買出しに出掛けたこと、積込みに当つて組の監督者の立会もなく、員数を合せたり、送り状の交付もなかつたこと、松本、城所が現場で積込みに当つて音を立てるなと注意したこと、現場で被告人朴が「もつと積んで行こう」と要求したところ、城所が「もつと積んで儲かるのはお前だけだ」と答え、被告人朴は「お前も儲かる」と返答し、最初三屯の約束が結局四、五屯を積むに至つたこと、積込みの現場でロープを掛けず校庭外に出て道路上でロープを掛けたこと、及び被告人方を出発するに当り被告人朴は松本、城所の両名に対し、「現場の責任はお前達が持つてくれ、途中の責任は自分が持つ」と申したことが認められ、その他前掲各証拠を綜合すると、被告人朴においても松本、城所が本件鉄筋を窃取するものであることを察知しており窃盗の犯意を認めるに十分である。
原判決は無罪の理由として、被告人坂本の「自分は松本等の言う鉄筋は或は同人等において盗み出す物ではないかと疑念を懐き、この点を同人等にただしたところ、同人等は松本の働いている現場の残材で松本が持つて来られる品物であるから大丈夫だと答え、城所は松本の上役であるかのように言うので、松本がまさか盗んでくるのではあるまいと同人を信用した」との供述、被告人朴の「自分は松本等から鉄筋を買つて貰い度い旨の申出を受け、これに対し或は盗品ではないかと疑念を抱き、同人等に対し繰返えしその点を聞きただしたところ、その都度松本等は盗品でない旨答えた。なお更に念を押して盗品のような物なら買わない。自分には前科があるんだからと、自分の経歴を披歴してまでその点をただしたところ、同人等は絶対にそのような物ではなく、自分等の働いている現場にある残材で組合にも話しずみであり大丈夫持つて来られる物だからと言い、最後にしからば現場における積取りはあなた方が責任を持つかと念を押すと、同人等は大丈夫と引受けたので安心した」との供述を引用しているけれども、右各供述は前記各証拠に照らすと単なる弁解に過ぎないと認められ、たやすく措信し難い。また仮りに右弁解の如く、被告人朴方において被告人両名が松本、城所の言を一応信用したとしても本件現場に至つて鉄筋を積込むに際しては、既に同人等が鉄筋を窃取するものであることを察知するに至つたことを確認することができる。尚原判決は被告人等は本件現場で鉄筋積込みの時に至つて、周囲の状況より松本等がこれを盗取するものであることを確認するに至つたがその際は既に事態の進行に巻込まれた形になり、ここに至つて積極的に犯意を認めることはできないと説く。然しながら、窃盗罪の犯意は窃盗の着手に当つてこれを有すれば足るものであるから、本件において鉄筋積込みの際、被告人等において松本、城所がこれを窃取するものであることを知つたに拘らずこれに協力してその積込みに加担した以上、被告人等に対しても同罪の成立することは当然である。また、本件の場合、何人を被告人等の立場に立たせたとしても、その期に及んで本件犯行に加わることを思い止まらせることを期待することは不可能であるとも認められない。果して然らば、原判決は証拠の価値判断を誤り、事実を誤認した違法があり、右は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は理由があると言わなければならない。
(山本長 目黒 深谷)