東京高等裁判所 昭和35年(う)448号 判決
被告人 益田貞夫
〔抄 録〕
ところで原判示第二の道路交通取締法違反の事実は原判決挙示の対応証拠によつて認めることができ、記録を調べてみても原判決に事実誤認の廉は見い出されない。すなわち被告人が原判示のごとく自動車運転者(操縦者)として交通に因り人の殺傷事故を惹起しながら被害者の救護その他必要な措置を講じなかつたことは、関係証拠とした原審第三回公判廷における被告人の供述、昭和三四年五月三一日付検察官供述調書及び同年六月八日付同調書第三項の各記載などによつて明白であつて、原判決の説示にもあるごとく、被告人において所論のように軽卒にも自転車で来た人の言を信じ人を殺傷した事実はないと思い込んだまま運転を継続したというがごとき弁解はとうてい採用することはできないのであつて被告人の故意を認定した原判決が誤つているとみるべき跡はない。また原判示第二事実に対して原判決が適用した法令中の道路交通取締法施行令第六七条第二項の規定たるや同条第一項の車馬又は軌道車の操縦者などが同項所定の措置を終えた場合において警察官が現場にいないときの報告義務などを規定しているのであるから、同条第一項所定の措置を講じなかつた所為に対しては同条第一項のみを適用すべきであつて、原判決がさらに警察官に対する申告などをなさず、そのまま其の場より運転を継続した旨を認定し同条第一項の外第二項をも適用したのは、ひつきよう無用の認定と適用条項を掲げたことに帰着するので、このことを理由として原判決を破棄するわけにはゆかない。もしそれ同条第二項の報告義務の違憲所論にいたつては、同条項を適用すべきものであることを前提とするが故にこれを適用すべきではない本件においては前提を欠くものであつて適切ではない。であるから控訴趣意第一点の所論はいずれも採用するに由ないものである。
(尾後貫 堀真 高野)