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東京高等裁判所 昭和35年(う)897号 判決 1960年6月28日

被告人 井出昭司

主文

本件控訴を棄却する。

理由

論旨第一点省略。

論旨第二点について。

所論は、原判決は二個の窃盗罪の成立を認め、各罪の犯情には軽重なく、強いて軽重をつけるとすれば、被害金額の多い原判決判示第二の罪が犯情が重いと認められるにかかわらず、同第一の罪をもつて犯情重いものとしながら、その理由を明示していないが、この点において、原判決には理由不備の違法がある、と主張する。しかしながら、法定刑を同じくする数個の同種犯罪を併合罪として刑を加重し処断刑を定める場合には、うち犯情最も重い罪を選定し、その罪の刑に法定の加重をなすべきことは、刑法第十条第三項、第四十七条本文の規定に徴し明らかである。しかし右の場合各個の罪の法定刑は同じであるから、いずれの罪の刑について併合罪の加重をしてもその処断刑に差異を生じないのである。よつて仮りに原判決が数個の罪のうち犯情重くないものを犯情最も重いものと定めた誤があつたとしても、被告人に何らの不利益を与えるものでないから、右誤は、判決に影響を及ぼすこと明らかな法令適用の誤といい得ないばかりでなく、又理由のくいちがいがあるものともいうことはできない。してみれば、原判決が被害金額のむしろ少い判示第一の罪をもつて犯情が重いものと認めたからといつて、原判決破棄の理由とならない。論旨は理由がない。

(その余の判決理由は省略する。)

(裁判官 岩田誠 渡辺辰吉 司波実)

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