大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和35年(く)49号 決定 1960年7月15日

少年 A(昭一八・五・七生)

主文

原決定を取消す。

本件を東京家庭裁判所に差し戻す。

理由

本件抗告の理由は、F、M子名義の抗告申立書に記載されているとおりであるから、ここにこれを引用する。

よつて按ずるに、本件少年保護事件記録及び少年調査記録並びに当審における事実取調の結果に徴すると、原決定には決定に影響を及ぼす法令の違反または重大な事実の誤認はいずれも存在しないことは明らかであり、本件非行の罪質、態様等に鑑みると、本件少年を中等少年院に送致してその補導、矯正をなすべきものとすることは必らずしも当を失しているとは認められないのであるが、当審における少年及び少年の父母らの審訊の結果によると、少年の父母は、従来の少年に対する指導監督の至らなかつたことを痛感し、将来における善導方については懸命の努力をなすべきことを誓つており、少年自身についてもその性格上の悪性は未だ顕著ではないと認められ、本件以前においては左したる非行の前歴もないばかりでなく、現在は本件非行について十分悔悟もしていると認められるので、これを適当な指導監督のある良好な環境の下におくときは、将来再び非行を敢てすることもないであろうという期待を抱き得ると認められるところ、この点については、前記父母の指導監督に止まらず、少年の叔父ないし従前の雇主の指導力も相当期待し得ると認められるので、かかる状況の下においては、今少年を中等少年院に収容した上その改過遷善をはかるよりは、父母、親戚等の膝下に復帰させ、一定の保護観察に服させ、円満な家庭の一員として自重、自戒の生活をさせる方が、むしろこの際においては少年のため適切、妥当な措置と認められるので、この意味において本件抗告はその理由があることに帰するといわなければならない。よつて、少年法第三十三条第二項に則り、原決定を取消した上本件を原裁判所たる東京家庭裁判所に差し戻すべきものとし、主文のとおり決定する。

(裁判長判事 三宅富士郎 判事 東亮明 判事 井波七郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例