東京高等裁判所 昭和35年(く)61号 決定 1960年7月11日
少年 S(昭一七生)
主文
本件抗告を棄却する。
理由
本件抗告の要旨は、Sは抗告人の三男であるが、友人T及びHと共謀の上、路上に駐車していた三輪自動車からガソリンを抜き取つたという廉で逮捕され、昭和三十五年四月二十七日東京家庭裁判所から少年を中等少年院に送致する旨の決定を受けた。しかしながら、元来Sは、昭和十七年生れの若年であり、智慮が浅薄で思考力も充分でなく、興奮すれば、前後の分別なく、一途に思うままに邁進して事を決する弊があり、他人から煽動されて事を誤るという、まことに悲しむべき性質を有するので、抗告人は、この悪癖を矯正しようとして鋭意努力していたところ、不幸病魔に犯され、入院加療二ヶ月を要するとの診断を受けて入院中、本件の発生を見たのであるが、抗告人は、親権者として、少年が再びかかる犯行を反覆しないよう、これを家庭に引き取り、温情をもつて指導監督し、身命を賭してその保護育成にあたる決心である。かかる事情よりすれば、原判決には、その処分について著しい不当があるから、これを取り消し、更に相当の裁判を求めるため、本件抗告に及んだというのである。
よつて按ずるに少年らに対する東京家庭裁判所昭和三五年少第七四〇五号及び同年少第七四〇六号窃盗保護事件記録に編綴されている少年及びHに対する各審判調書並びに○高○雄作成提出の昭和三十五年四月七日付被害届の各記載を総合すると、少年は、昭和三十五年四月七日午前三時五十分頃友人T同Hと共謀の上、東京都大田区○○○△丁目◇◇◇番地先道路に駐車中のダイハツ号三輪自動貨車のガソリンタンクからガソリン十リツトルを抜き取つてこれを窃取したことが認められるのであつて、その犯罪自体は、さのみ悪質のものではないが、前記保護事件記録添付の少年に対する少年調査記録に編綴されている各少年調査表、本籍照会に対する回答書、学校照会に対する回答書、各鑑別結果通知書、各試験観察経過一覧、各試験観察経過報告書及び各補導成績報告書の各記載を通じて認められる少年の学歴、経歴、環境、家庭の状況並びに少年に対する本件及び従前の各保護事件(昭和三三年少第六二三八号、同年少第九九一〇号、同年少第一七三七〇号、昭和三四年少第五六六五号)に見られる各非行の動機、態様少年に対する各保護処分の効果その他諸般の状況について勘案してみると、少年に対しては、親権者の手許に置いて保護観察所の保護観察に付する処分だけでは、既に保護善導の目的を達成し難い状態にあるものと認められるので、その目的達成のためには、少年を従来の環境から切り離し、これを中等少年院に送致し、秩序ある生活規律に基く訓練を受けしめて性格の矯正を図り、もつて将来に対する社会適応性を体得させる必要があるものといわなければならない。
よつて、右と同趣旨に出でた原決定は、まことに相当であつて、少年法第三十二条本文にいわゆる著しい不当な廉はなく、本件抗告はその理由がないから、同法第三十三条第一項に則り、主文のとおり決定する。
(裁判長判事 下村三郎 判事 高野重秋 判事 真野英一)