大判例

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東京高等裁判所 昭和35年(ツ)94号 判決

原判決の記載によると、下記のことを認めることができる。すなわち、原判決はその挙示する証拠によつて、(イ)本件店舖が所有者である訴外円正寺から上告人に、上告人から訴外菊地精之助に、菊地から訴外藤井徳治に、藤井から分割して各一部分づつがそれぞれ被上告人両名に順次賃貸或は転貸、転々貸又はその譲渡がされ、その間における本件店舖の使用関係の推移と賃料の支払関係、本訴提起に至るまでの経緯として、被上告人等が藤井とともに菊地に賃料の減額方を依頼したところ、菊地は上告人に相談してみると答えたこと、その後菊地から藤井に対し無断転貸を事由とする本件店舖の賃貸借契約の解除がなされ、次いで上告人から菊地に対して同じく無断転貸を事由とする賃貸借契約解除の通告がなされたこと、その間菊地と上告人が本件店舖を被上告人等より明け渡させる相談をしている事実を認定している。また、その挙示の証拠により、(ロ)本件店舖の位置状況として、本件店舖は築地中央卸売魚市場の場外市場という水産加工品の卸売、その他魚市場に来集する多数の水産物食糧品等仕入商人のためのマーケツト式、或は露店商的に一坪ないし五坪位の小店舖も珍しくない店舖の密集している特殊商業地域の一画に存し、円正寺所有の同種店舖の一で、円正寺の門前に存する事実を認定している。さらに、右認定の諸事実、とくに、上告人の菊地に対する転貸と、菊地の藤井に対する転貸とが引き続いてなされ、被上告人等の本件店舖の占有以後係争となるまでに四年半を経過し、その間賃料の支払等も円滑に行われていたこと、上告人が本件店舖を菊地に転貸してから本件係争に至るまでの経緯、本件店舖の状況並びに上告人が長年本件店舖で営業をなし、その妻も賃料取立のため常に本件店舖附近にきており、菊地も同店舖附近の事情に通じていること等からみると、上告人は菊地に、菊地は藤井に本件店舖をそれぞれ転貸するに当つて、これを更に他に転貸することもあらかじめ承諾し、賃料の支払が確実になされ又自ら使用する必要がある場合の明渡の確保があれば、転借人の変更があることをとがめない趣旨であつたと認めるのが相当であると判断している。一方、原判決は、上告人が被上告人等を本件店舖の転借人として明らかにとり扱つていたと認めるに十分な証拠はないと判断しているが、結局上告人は菊地の藤井に対する転貸、藤井の被上告人等に対する転貸について、これをとがめ得ないわけであるから、無断転貸を理由とする判示契約解除は少くとも被上告人等との関係ではその効力を発生したものとはいえず、被上告人等は本件店舖について各占有権原を有するとしていることは、原判文上明らかである。

原審の認定した右記の(イ)及び(ロ)の各事実は、それぞれ原判決の挙示している各証拠によつてこれを認めることができる。上記のように、それぞれ認定した諸事実から、さらに別個な事実を推理判断するには、右各事実に経験則を用いて推理判断し得る範囲内のものでなければならないのはもちろんである。本件の場合について考えてみると、賃借人または転借人がその賃借また転借した家屋の一部をさらに転貸する場合には、民法第六一二条によつて賃貸人または転借人の承諾を必要とするものであるから、何人にでも転貸または転々貸してもいいということを予め承諾しているというような特別な事情については、通常の場合に比し相当な高額な権利金をとつていることその他特別な事情が存しなければならないところ、原判決の認定している上記(イ)及び(ロ)の諸事実だけでは、右のような特別の事情とは認めることができないばかりではなく、右(イ)及び(ロ)の各事実からは上告人が何人に対する転貸をも予め承諾していたとは推認することはできない。また、上記のように、原審が認定している上告人が本件店舗附近の事情について通じているとのことは、或は被上告人両名の転借を承知してそれを黙認した一事情になるとしても、予め何人に対する転貸を承認している一事情とはたやすく認めることができない。従つて、原審のなした右推理判断は経験則に反する判断で、結局において、審理不尽、理由不備の違法があるといわなければならない。

(村松 伊藤 杉山)

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