大判例

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東京高等裁判所 昭和35年(ネ)821号 判決

控訴人は、本件賃料は各月分を毎月その月末に支払う約定であつたのに、被控訴人は昭和三十三年七月一日から同年九月三十日までの賃料を右期限に支払わず、履行遅滞の状態にあつたのであるから、その後、かりに、被控訴人の主張するように、同年十月初旬なんら予告もなく突然控訴人方に六カ月分の賃料を持参したとしても、控訴人方不在のため支払うことができなかつた以上、これを以て支払のための適法な提供であるとはいえず、従つて、これによつて履行遅滞の責を免れるものでないと主張している。しかし、本件の期限は債権者の利益のためのものであつたと認める資料はないし、また、七、八、九の三ケ月分の賃料は弁済期が到来しているのであるから、右の弁済の提供は適法なものということができる。

のみならず本件調停条項には、賃料の支払を怠りその額四カ月分に達したときは、控訴人は催告を要せず解除することができる旨定められていることは、当事者間に争がないのであるが、この趣旨は、賃貸借契約を存続することが信義則上不当であると認められる場合に、催告を要せず解除しうることを定めたものと解するのが、建物の所有を目的とする借地契約の性質上相当である。そして被控訴人が本件賃料を四ケ月分以上に亘つて不払になつた理由は被控訴人が賃料支払の資金に困つたとかその他深い理由があつてのことではない。被控訴人や右森本満は調停条項にある持参払の趣旨を十分よく了解せず、また一方、控訴人は本件借地上にある被控訴人の酒屋の店の隣近所に数口の貸地があつて、毎月賃料の取立に行き被控訴人の店の前を通つても被控訴人方へは立ち寄らないこと、被控訴人としてはついでに立寄つてくれることを期待しつつ、賃料の準備をしていたが、ついに支払が延びて終つたものであつて、以上のことは前示証人森本満、坂田静枝の各証言と本件口頭弁論の全趣旨とに徴し明らかである。従つて、かりに、控訴人の出張するように、森本満が昭和三十三年十月初旬賃料を持参しても、控訴人方が全戸不在で支払うことができなかつたため、それが債務の本旨に従つた履行の提供とは云えないとしても、被控訴人がこのように賃料支払の意思を有し、かつ、これを実行しようとし、かつ、その後も支払の用意をしていたことが前記森本証人の証言によつて認められる以上、その後再び支払をなすにつき在宅の時に持参するとか、持参の時刻を連絡するとか、万全の措置を講ぜずに放置し、五カ月分以上の賃料の支払をしなかつたからといつて、これを以て、前記のように信義則の違反があり催告を要せずに解除をなしうる要件を充たしたものということはできない。

(薄根 元岡 小池)

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