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東京高等裁判所 昭和35年(ラ)148号 決定 1960年4月19日

〔解説〕扶養権利者の需要によつては、請求後から権利者が成年に達した後においても扶養料の支払を命ずることができる

抗告人 小暮市太

主文

本件抗告を棄却する。

理由

一、本件抗告の理由は末尾記載のとおり。

二、原審判は、本件扶養権利者の需要、扶養義務者の資力その他の一切の事情につき、原審判に認定されている諸事実を参酌して本件扶養料の額を定めたものであつて、その判断が不相当であると認むべき何らの資料がない。

抗告人は抗告人と右審判申立人の親権者との相互の月収及び家族数を比較して、本件扶養料額は一か月につき金一、五〇〇円が相当である、と主張するが、右申立人の学力、能力から推して私立の高校を志望するのほかなく、その場合居住地からの通学不便の事情もあつて、申立人は昭和三十四年四月に北海道樺戸郡月形町所在新墾藤学園中学二年に編入入学し、寄宿舎に入舎したという、原審判認定の右申立人の特殊の需要にかんがみるときは、原審判が申立人の高校卒業の予定時期まで、抗告人が申立人親権者の申立人に対する扶養の資力の不足を補うために一か月につき金三、〇〇〇円を支払うべきことと定めたことは、抗告人に対して不当に高い負担を科したものということはできない。

次に抗告人は、審判確定前経過分及び申立人が成年に達したのち扶養料は支払うことができない、と主張する。しかし、審判の効力が確定をまつて始めて生ずることはいうまでもないが、扶養権利者の需要に応じてその請求後は審判確定前経過年月に対する扶養料の支払を命ずることも差支なく、また権利者が成年に達してなおその需要の存するときは引きつづき扶養料の支払を命ずることができるものと考うべきところ、本件審判申立人の前記需要にかんがみるときは、原審判が申立人の前記学園入学後なる昭和三十五年三月からその卒業予定時期の昭和三十九年三月まで一か月につき金三、〇〇〇円の扶養料の支払を命じたことは、必ずしも不当ということができない。

その他記録を調査しても、原審判には何らこれが取消の理由たるべき違法の点を見出し得ないので、本件抗告はその理由がないものと認めて、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 内田護文 裁判官 鈴木禎次郎 裁判官 入山実)

参照 抗告の理由

一、申立人法定代理人親権者渡辺まさの収入月額一六、三〇〇円、家族二人、一人当八、一五〇円

相手方小暮市太郎の収入月額三九、九四〇円、家族五人一人当七、九八八円

上記の通り一人当生活費を比較した場合扶養出来得る状態ではないと思はれます。従つて特別に必要とする経費即ち寄宿舎費(食事費を除く)月額一、四〇〇円授業料差額(普通中学校との差)一、一三〇円の合計額の折半、月一、五〇〇円が適当と思はれ且つ給付能力の限度一杯です。

二、扶養料として審判額一か月三、〇〇〇円(抗告人要請額月一、五〇〇円)を昭和三五年三月から昭和三九年九月まで給付とありますが昭和三八年九月二四日を以て申立人が成年に達するに付き給付期間はそれまでと考えます。

三、給付期間に付いて昭和三五年三月二日以降に確定した場合はすでに経過した分はその合計額を審判確定の翌日かぎり支払うものとするとありますが審判確定より開始すべきものと考えられますので経過分の合計額確定翌日限り支払う事は出来兼ねます。

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